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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,平成24年2月3日,発明の名称を「立体網状構造体製造方法及び立体網状構造体製造装置」とする特許出願(特願2012-22551号)をし,平成25年5月17日,設定の登録(特許第5270014号)を受けた被告(シーエンジ)に対し,原告(エアウィーヴ)が,平成25年11月1日,特許庁に対し,無効審判の請求をしたところ(進歩性なし,記載不備あり,補正の要件違反),特許庁は,上記請求を無効2013-800208号事件として審理した結果,平成26年4月30日,不成立審決(進歩性あり,記載不備なし,補正の要件違反なし)をしたことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです(取消事由は進歩性の所のみ)。

 これに対して知財高裁1部(設樂さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決とおりで進歩性ありでいいんじゃな~いってところでしょうか。

 ここで取り上げるには珍しい,審決のままパターンです。とは言え,進歩性ありですし,技術が意外と理解しやすく,しかも当事者が今急成長中の企業ですし(エアウィーヴはブランドそのままですが,シーエンジの方は,C-Coreというブランドのようです。),ああ,あのマットってそうやって作るんだ~って所が大凡わかったので,取り上げたわけです。

 まずはクレームです。
 「熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスから下方へ押し出し,
 一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端コンベアの間に前記線条を自然降下させ,
 該無端コンベアが前記降下速度より前記線条を遅く引き込み,
 前記押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベアが,水没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する,
 立体網状構造体製造方法において,
 前記無端コンベアが,複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり,
 前記板材の隙間に水が流れることを特徴とする立体網状構造体製造方法。」

 製造方法のためということもあり,基本クレームというのは読みにくいということもあり,なかなか一目で理解しづらいと思います。こういうときは,図面です。
 
 明細書の図6ですが,これと見比べながら,クレームをづらづら辿るとようわかるのではないでしょうか。

  要するに,敷布団のマットレスの中身の製造法なわけですね。
 熱でグニャグニャになるプラスティックを水中に射出し,コンベアでいい感じに潰し水冷して成形するというもののようです。

 で,同業他社同士の潰し合いが起こったわけですね。

 ポイントは,このコンベアです。
 本願の場合,このコンベアがスラットコンベアなのですね。これは,一条又は数条のチェーンにスラットを連続的に取り付けたチェーンコンベアのことを言うらしいです。そして,スラットとは,slatで,細長い薄板のことですね。

 他方,引例は2つです。甲2と甲1です。
 
 甲2から先に書いたのは,こちらの方が,本願に近いから,ですね。ちなみに,甲1のコンベアはベルトコンベアで(相違点1),甲2のコンベアがネットコンベアとなっています(相違点2)。

 一致点・相違点はわざわざ示さずともわかりますよね。

2 問題点
 問題点は,上記のとおり,進歩性の有無です。そして,進歩性の論点の場合,大きく2つの論点があるとここで散々述べました。事実認定と法的判断のものです。一部の論者で,これらのことを容易性だか想到性だか言うようですが,どっちがどっちかわからなくなりますので,私は使いません。

 まあそれはいいとして,問題になったのは,本件の場合,法的判断です。つまりは,動機付けできるかどうかです。

 上記のとおり,相違点は,コンベアの種類のみですので,巷で物品の搬送に使われているネットコンベアやらベルトコンベアやらを,本件の技術分野においても,置換等が容易かどうかってやつです。

 とすると,何だか,進歩性の教科書的事例のような様相を呈してきます。

 ネットコンベアって,上記のとおり,スラットコンベアと同様によく使われているものです(搬送用でね。)。しかもネットコンベアなので,置換えをしても,水が隙間を流れることができます(他方ベルトコンベアは連続体なので,隙間はありません)。

 とは言え,搬送の技術分野と,こういうプラスティックの成形法の技術分野とはまるっきり違います。なので,これで動機付けできるか~っつうと,今の御時世,かなり厳しそうですね。

3 判旨
「甲11文献によれば,コンベアとは,荷を連続的に搬送する機械のことをいい,ネットコンベアやスラットコンベアは,かさ物用コンベアのうちチェーンコンベアに分類されていることが認められる(甲11)。そして,日本工業規格は,工業標準化法(昭和24年法律第185号)に基づいて制定される工業標準であって,甲11文献は,その中でも一般に用いられるコンベアの種類に関する主な用語とその定義について規定するものであるから,本件特許の原出願日の時点において,ネットコンベア及びスラットコンベアは,かさ物を連続的に搬送する手段として周知慣用技術であったといえる。
 しかし,甲11文献においては,上記のとおり,コンベアは「荷を連続的に搬送する機械」,すなわち搬送手段として定義づけられている一方で,ネットコンベアやスラットコンベアを成形手段として用いることについては何らの記載も示唆もされていない。(甲11)
 したがって,甲11文献には,スラットコンベアが熱融着繊維等から成る繊維製品の成形手段として周知慣用技術であることが開示されているとはいえない。
(ウ) 次に,甲3公報には,従来の技術として「この種繊維製品に熱処理を施し,前記製品を得る成形機としては,通常スラットコンベアと称される成形機が市販されている。」旨が記載されている(甲3・段落【0002】)。しかし,「この成形機は,図8に示す如く,多数の横棧をエンドレス状に設けてなるスラットコンベアを上下側に配設し(略),前記上下側のスラットコンベアの終端に矯正ロール群を設けてなる構成」であって,「繊維製品は,当該上下側のスラットコンベアの進行に伴って搬送され(略),上下側の矯正ロール群の押圧・成形処理により所定の厚さ,硬さを有する製品に処理加工」される(同段落)というのであるから,当該成形機においては,熱融着繊維等から成る繊維製品の押圧・成形処理に当たり,同繊維製品と上下側のスラットコンベアが直接接していたとしても,当該処理は専ら矯正ロール群によって行われており,スラットコンベアが成形機能を担っているものとはいい難い。・・・
 このほか,原告が指摘する証拠(甲4,5)にも,スラットコンベアを繊維製品の成形手段として用いることは,何ら開示も示唆もされていない。
(オ) 以上において検討したところによれば,スラットコンベアが,繊維製品に係る成形手段として周知慣用技術であったことについては,いまだ立証がされているとはいえず,また,スラットコンベアが繊維製品の成形機能を有する手段として用いられたことを示す公知技術の立証すらない。
(カ) このように,本件特許の原出願日の時点において,スラットコンベアが搬送手段として周知技術であったとしても,本件においては,それが繊維製品の成形手段として周知慣用技術であったとは認めることができず,また,それが繊維製品の成形機能を有する手段として用いられたことを示す公知技術の立証すらないのであるから,甲2発明のネットコンベアに代えてスラットコンベアを採用することにつき,当業者が容易に想到し得たというためには,この点についての示唆ないし動機付けがあることについての立証を要するというべきである。
 この点,原告が主張するとおり,甲2発明の特許請求の範囲においては,「引き取り装置」との記載しかなく(【請求項5】),甲2発明に係る明細書を精査しても,これがネットコンベアによる構成に限定されることをうかがわせる記載はない(甲2)。
 しかし,一方で,当該明細書に記載されている実施例及び比較例は,そのすべてが「ステンレス製エンドレスネット」で構成されたネットコンベアを使用するものであって,当該引き取り装置としてネットコンベア以外の手段を用いることは何ら記載されておらず,その示唆もされていない。そして,当該引き取り装置としてネットコンベアを用いることに,何かしらの問題がある旨の記載もされていないから,甲2公報に接した当業者が,当該ネットコンベアを他の手段に置換しようと動機付けられるとはいえない。
 また,甲11文献には,成形手段として用いるには不適当な形態を含む多種多様なコンベアが記載されていることに鑑みれば(甲11),甲11文献に接した者において,成形手段としてスラットコンベアを使用するという動機付けがされるとは到底いえない。
 そして,このほかに,甲2発明のネットコンベアに代えてスラットコンベアを用いることについて示唆ないし動機付けがあると認めるに足りる証拠はない。
オ 小括
 よって,本件発明1は,甲2発明及び周知慣用技術に基づき,当業者が容易に想到し得たものであるとの原告の主張は採用することができない。」

4 検討
 要するに,搬送の技術分野と成形の技術分野は全く違い,その他動機付けとなり得るものは全くない!まさにコロンブスの卵じゃ!という感じですね。

 これはまあ仕方のない所じゃないでしょうかね。

 で,これで終わってもアレなんで,余計な話にいきましょうかね。

 これ,無効審判を起こしたのは,スポーツ選手のCMで有名なエアウィーヴです。ですので,かなりヤバイと思ったのでしょうね。何せ,この特許,分割出願なので,原出願日は,2001年の3月16日というかなり前です。
 他方,エアウィーヴの出願を見ると,うーん大して出願していないなあ。他方,本願の出願人であるシーエンジの方を見るとこりゃたくさん出願しています~。

 いやあ製造法ということもあり,ノウハウで秘匿化するというパターンかなあとも思ったのですが,これ実際の製品を解析すると,大体の製法がわかるのでしょうね。線状体の押されている所や押されていない所の差が,実際の製品の断面プロファイルをとったりすると,かなりの確率で推測可能なのでしょうね。

 そう,自著の「知財実務のセオリー」でも書いたとおり,ノウハウか特許出願かの切り分けの基準は,唯一つ!リバースエンジニアリングで分かるかどうかです。
 特許出願する金が惜しいからノウハウ化するというのは全くお薦めできませんね。

 元に戻りますと,とすると,エアウィーヴはかなりヤバイのではないでしょうか。対抗する特許はないし,上記のとおり,リバースエンジニアリングで分からない分野でも無さそうですから,先使用権の抗弁も難しいでしょうね。しかも,特許はかなり古い特許で潰れません。

 これねえ,戦略がまずいですよ。宣伝やテレビCMを打ってバンバン広告費を費やして売上はかなり伸びていると思うのですね。でも,真似されたときの対策,また真似しているときの対策を全く打っていなかったということになります(特許出願数から推定)。
 私のような性格の悪い人間から言わせると,今や鴨が葱を背負ってやって来ている状態ですね。旨そう~♡ですわ。

 いやあ誰かアドバイスする人居なかったのですかね。
 近時スタートアップ企業や新規事業立ち上げのときに,知財の戦略,特に特許の戦略を立てるのはもはやデフォーと言ってよいのですが,実際まだまだなのですね。

 あ,ちなみに私もときどき知り合いからそういう仕事はしないのか(要するに知財コンサル)と聞かれます。大企業のエンジニア,知財部出身,インハウスで弁理士やって,今は弁護士,会社の帳簿も読めるし,言うことないじゃん,てなもんです。

 でもねえ,私には最大の弱点,玉にキズがあるのです。あ,口が悪いとか性格が悪いとかじゃないですよ。それは人嫌い,人間が好きじゃないのです。
 こりゃコンサルには向きませんね。
 それに,別に知財に限らないのですが,コンサルって正直いんちき臭いですよね。胡散臭そうっつうか,詐欺師っぽいというか,思いませんかね。まさにThe great intellectual property swindle~♪♪ジョニー・ロットンの金切り声が聞こえてきそうですニャ。なので,そんなことする気もなーいってやつです。

 ま,私のことはどうでもいいのですが,少なくとも宣伝費や設備投資にかなりの金をかけて,新規事業や起業化を図るときには,兎に角,他社が真似したらどうすんだ?ってことと,他社の真似をしてたらどうすんだ?ってこの2つを必ずクリアにしてた方がいいと思います。つーか,いいと思いますじゃねえなあ,クリアにしないといけねえってことです。

 金を貸す所や投資をする所も,貸す前,出資する前にこの2つがどうなっているかを執行の責任者に問いただしておく必要があります。これはコンプライアンス上も本当重要ですからね。

 あ,柄にもなくマジな話で,しかも役に立つ話を書いちまったわ~。こりゃつまらん。基本,このブログは,悪口と金の話,あと私のプチ自慢しか書かないのが原則なので,今日の件は,ま,適当に受け流してくださいな。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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