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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件の概要は以下のとおりです。
 「発明の名称を「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」とする特許第4913030号(本件特許)の特許権者である被告に対し, 原告は,平成24年5月2日,本件特許のうち請求項1に係る部分を無効にするとの無効審判を請求した(無効2012-800073号)。
 被告は,平成25年1月22日,訂正請求をした。
 特許庁は,同年4月15日,上記訂正を認めた上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
 原告は,同年5月8日,知的財産高等裁判所に上記審決の取消しを求めて訴えを提起した(平成25年(行ケ)第10134号)。
 知的財産高等裁判所は,同年11月27日,上記審決を取り消す旨の判決(第1次審決取消判決)をした。同判決は,同月28日,被告の上訴権放棄により確定した。 その後,特許庁において,上記無効審判の審理が再開された。
 被告は,平成26年2月28日,訂正請求をした(本件訂正)。
 特許庁は,同年8月12日,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし,同月21日,その謄本を原告に送達した。
 原告は,同年9月5日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。

 つまりは,特許庁と裁判所でのキャッチボールがあったものの,特許庁で一定の訂正を認め,有効だとする審決が出たのに対し,無効審判請求人の原告が審決取消訴訟を提起したものですね。

 これに対して知財高裁3部(石井さんの合議体ですね。石井さんはこの春異動で,支部の知財高裁から,本庁の東京高裁へ異動になるようです。石井さんの後釜には,那覇地裁の鶴岡稔彦さんが来るようです。)は,審決を取消しました。要するに,訂正要件違反あり!ってことですね。

 あー珍しい訂正要件違反~。
 ちなみにクレームを見てみましょう。
「【請求項1】
水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,該基剤に保持された目的物質とを有し,皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,
前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,グリコーゲン,デキストラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し,デキストランのみからなる物質は除く)であり,尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤,及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)。」

 下線部が訂正された所です。除くクレームになっているようです。ただし,後半の訂正部については,皮膚に挿入するやり方を限定しているような感じになってますね。

2 問題点
 訂正要件を規定する特許法134条の2第1項です。
特許無効審判の被請求人は、前条第一項若しくは第二項、次条、第百五十三条第二項又は第百六十四条の二第二項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一  特許請求の範囲の減縮
二  誤記又は誤訳の訂正
三  明瞭でない記載の釈明
四  他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。
 この但し書きは,特許法126条1項8号で,無効事由として規定されております。ですので,この但し書き違反でも無効となるのですね。

 で,今回の上記の訂正については,被告は何を目的としたかというと,除くクレームになっているからこりゃ減縮でしょ!そう,1号の特許請求の範囲の減縮じゃんよ~♪って主張して,これを審決も受け入れたわけです。

 ま,確かに通常は,除くクレームじゃないのを除くクレームにしたら,減縮になりますよね。
 例えば,A={素数の集合|1,2,3,5,7,11・・・}として,これから一桁のものは除くとして,A'={素数の集合|11,13,17,19・・・}としたら減縮ですわな。

 ただ,これは含まれる要素を明確にして,きちんとその要素を除いているからこそです。
 例えば,上の例で,無理数を除くとして,A’={素数の集合|1,2,3,5,7,11・・・}としても,減縮にはなりませんよね。素数はそもそも自然数なので,無理数(√5とかπとかね)ははなっから含まれてませんもん。

 特許庁の審判便覧には,具体例として,以下のものが載っています。
(2) 「特許請求の範囲の減縮」に該当しない具体例
 ① 直列的に記載された構成要件の一部の削除
 ② 択一的記載の要素の追加
 ③ 請求項を増加する訂正(以下(3)⑥⑦に該当する場合を除く)
(3) 「特許請求の範囲の減縮」に該当する具体例
 ① 択一的記載の要素の削除
 ② 構成要件の直列的付加
 ③ 上位概念から下位概念への変更
 ④ 請求項の削除・・

 除くクレームは具体例としては載っておりませんが,上記のとおり,通常は減縮に当たりますから,載せるまでもないってことだったのでしょう。
 
 でも,いつもいつもOKとも限らないわけですね。

3 判旨
「特許法134条の2第1項ただし書は,特許無効審判における訂正は,特許請求の範囲の減縮(1号),誤記又は誤訳の訂正(2号),明瞭でない記載の釈明(3号),他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること(4号)を目的とする場合に限って許容される旨を定めているところ,訂正が特許請求の範囲の減縮(1号)を目的とするものということができるためには,訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として,訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であるというべきである。
 これを訂正事項3について見ると,訂正事項3は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを,「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,・・・及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)」に訂正するものである。
 そうすると,本件発明は,「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,本件訂正発明も,「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり,そのためには,訂正事項3によって除かれる「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であること,言い換えれば,「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様が,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要というべきである。
 しかし,「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様によっても,経皮吸収製剤保持用具の構造が変われば,それに応じて経皮吸収製剤の形状や構造も変わり得るものである。また,「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様によるか否かによって,経皮吸収製剤自体の組成や物性が決まるというものでもない。
 したがって,上記の「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様は,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえない。
 以上のとおり,訂正事項3によって除かれる「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」は,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であるとはいえない。そうすると,訂正事項3による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,技術的に明確であるとはいえないから,訂正事項3は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。」

4 検討
 親ガメこけたら皆こけた~ではないけれど,前提が明確でないなら,減縮か減縮じゃないかようわからない~それはそのとおりですね。
 ですので,まあこういう風に言われてもしょうがないのかなあという気がします。

 以前この部分について何か裁判で問題になったということは私は知りません。ですので,これは初めての判断じゃないでしょうか。
 要するに,訂正する場合も,明確性の要件を考えないといけないってわけです。
 まあ当たり前っちゃ当たり前なんですけど,特許って,拒絶も,無効も,異議も,限定列挙なのですね。
 ですので,その趣旨からすると,明文にない要件を実質的に足すような気もして,うーんどうなのかなあっていう感もないとは言えません。

 ま,その辺の細かい話はチンピラ弁護士より,暇な学者連中に委せた方がいいでしょ。ムフフフ。

5 恒例
 ということで,恒例の高血圧ボーイの散歩のコーナーです。
 本日も,アマゾン本社裏の目黒川沿いです。
 
 で,よく見てください。ついにピンク色の花弁がチラホラ見えます。特にこの木は早く,他に,こんな花弁まで見える木は無かったのですが,ついに来ました。
 約1週間前の3/11のブログでは,緑の蕾みたいなものがみえていただけなのに,1週間で,この早さです。いやあ,こりゃ,今週末にもチラホラ咲くと思いますよ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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