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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,特許の無効審判での却下審決(一事不再理違反)に対する審決取消訴訟です(珍しい)。
 詳細には,判決から引用します。
「(1) 被告は,平成8年7月24日に出願(優先権主張 平成7年12月11日,日本国)され,平成20年4月25日に設定登録された,発明の名称を「洗浄剤組成物」とする特許第4114820号(以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である(甲6)。
(2) 本件特許については,平成21年7月13日付けで,原告とは異なる第三者から,本件特許の優先日前に頒布された刊行物である特開昭50-3979号公報(甲4。以下「甲4公報」という。)を主引用例として,進歩性欠如を理由とする無効審判が請求され(無効2009-800152号事件),被告は,その審理の過程で,同年10月5日付け訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした(甲5)。特許庁は,平成22年3月2日,本件訂正を認めた上で,上記無効理由に基づき,本件特許を無効とする旨の審決をした。知的財産高等裁判所は,同審決に対する審決取消訴訟(平成22年(行ケ)第10104号事件)において,同年11月10日,同審決を取り消す旨の判決を言い渡し,これを受けて,特許庁は,平成23年1月31日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1審決」という。)をし,この審決は,同年3月14日に確定した。
(3) 原告は,平成23年8月25日,本件特許につき,本件発明は,第1に,本件特許の優先日前に頒布された英国特許第1439518号公報(甲3。以下「甲3公報」という。)を主引用例として,第2に,甲4公報を主引用例として,これらに特開平7-238299号公報(甲2。以下「甲2公報」という。)その他の周知技術を組み合わせると,容易に想到し得るものであり,いずれも進歩性がないとする無効審判を請求し(無効2011-800147号事件。以下「第2審判」という。),平成24年4月12日,請求不成立の審決がされた(以下「第2審決」という。)。知的財産高等裁判所は,同審決に対する審決取消訴訟(平成24年(行ケ)第10177号事件)において,上記無効不成立審決を維持し,平成25年2月27日,原告の請求を棄却し(以下「第2判決」という。),第2審決は,同年3月13日に確定した。
(4) 原告は,本件特許につき無効審判を請求し(無効2014-800045。以下「本件審判」という。),特許庁は,審理の結果,平成26年9月16日,「本件審判の請求を却下する。」との審決をし(以下「本件審決」という。),その謄本を,同月29日,原告に送達した。」

 これに対して,知財高裁1部(設樂さんの合議体ですね。)は,審決を取消しました。要するに,一事不再理違反ではないってことです。

 まとめるとこんな感じ~。
無効2009-800152(第一) 無効2011-800147(第二) 無効2014-800045(本件)
第三者請求 原告請求 原告請求
主引例:甲4 主引例:甲3(副引例甲2)
主引例:甲4(副引例甲2)
主引例:甲3?(副引例甲1,甲2?)
主引例:甲4?(副引例甲1,甲2?)
訂正→無効審決 不成立審決 却下
H22行ケ10104 H24行ケ10177 H26行ケ10235(本件)
審決取消→有効審決 そのまま→有効審決確定 審決取消し
一事不再理とは関係なし 一事不再理の対象


 まあ,要するに,同一の当事者で,同一の証拠じゃねえのって所です。
 
 あんまり関係ないけど,クレームです。
【請求項1】水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類,及びグリコール酸ナトリウムを含有し,水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1~40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物。

2 問題点
 問題点は一事不再理です。条文から行きましょう。

(審決の効力)
第百六十七条  特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。

 ということで,二次審決が確定し,それと証拠が同じなので,この条文に違反するのでは?と言われているわけです。

 この条文が問題になったものとして,近時改正されていますので,改正後で,商標法の事件がありました。
 「平成25年(行ケ)10226号(知財高裁平成26年03月13日判決)」です。このブログでも紹介しております。

 そのときの裁判所(飯村さんの合議体ですね。)がどう言ったかというと,
「特許法167条は,「特許無効審判・・・の審決が確定したときは,当事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない」旨規定する。
 同条は,当事者(参加人を含む。)の提出に係る主張及び証拠等に基づいて判断をした審決が確定した場合には,当事者が同一事項に係る主張及び立証をすることにより,確定審決と矛盾する判断を求めることは許されず,また,審判体も確定審決と矛盾する判断をすることはできない旨を規定したものである。同条が設けられた趣旨は,①同一事項に係る主張及び証拠に基づく矛盾する複数の確定審決が発生することを防止すること,②無効審判請求等の濫用を防止すること,③権利者の被る無効審判手続等に対応する煩雑さを回避すること,④紛争の一回的な解決を図ること等にあると解される。  
 そうすると,無効審判請求においては,「同一の事実」とは,同一の無効理由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは,当該主張事実を根拠づけるための実質的に同一の証拠を指すものと解するのが相当である。そして,同一の事実(同一の立証命題)を根拠づけるための証拠である以上,証拠方法が相違することは,直ちには,証拠の実質的同一性を否定する理由にはならないと解すべきである。このような理解は,平成23年法律第63号による特許法167条の改正により,確定審決の第三者効を廃止することとし,他方で当事者間(参加人を含む。)においては,紛争の一回的解決を実現させた趣旨に,最も良く合致するものというべきである。」

 まあ趣旨と要件の解釈をしていますね。
 趣旨は4つある。そして,証拠の同一性は,実質的に判断する,というわけです。ただ,これは商標の事件であり,特許だと別の観点からの話も出来るはずです。
 つまり,特許の進歩性等の場合,主引例と副引例等というレベルの違いがあり,この違いが重要なのですね(例えば,同じ証拠の組み合わせでも主引例と副引例をひっくり返した場合で拒絶するときは,新たな拒絶理由通知が必要だ!とかね。)。

 特に,本件の審決では,上記のとおり,主引例が確定した前の二次審決と変わらない(甲3と甲4)と判断しているのに対し,原告は,「本件審判における主引用発明は,甲1文献に記載された「2%以上の水酸化ナトリウム熱水溶液(キレート剤は助剤である)でガラス瓶を洗浄する」との発明であり,本件審決の「主引用発明は,甲3(あるいは甲4)に記載された「OS1」なる金属イオン封鎖剤組成物に係る発明であるということができる。」
との判断は誤りである。」と主張しているのですね。

 つまり,審判に現れている証拠のバリエーションとしては,本件の審決でも変わらない~,ただし,その証拠それぞれの位置づけが変わっている場合でも,「同一の証拠」に当たるのかが問題になるわけです。

3 判旨
「本件審判の請求書における上記記載によれば,原告は,本件審判の無効理由として,甲1文献に記載された従来技術と甲3公報に記載された「OS1」との組合せによる容易想到性(特許法29条2項)を主張していること,すなわち,甲1文献に記載された従来技術である「ガラス瓶,金属表面の洗浄において2%以上のNaOH(水酸化ナトリウム)水溶液が,キレート剤としてコンプレクサン型であるEDTAを添加して常用されていたこと」を主引用発明とし,生分解が低いという問題があるEDTAを,それと同じくコンプレクサン型の生分解性に優れるキレート剤に変更するという技術思想が甲2公報に記載されていることを動機付けとして,甲3公報に記載された,同じくコンプレクサン型の生分解性に優れるキレート剤である「OS1」を,主引用発明におけるEDTAに代えて用いて,「2%以上のNaOH水溶液に,キレート剤として「OS1」を添加して,ガラス瓶,金属表面の洗浄に用いる」ことにより,本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたと主張しているものと解される。
イ 本件審判の請求書には,上記の記載のほかにも「甲第3号証には,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウムとの相乗作用について記載がない。しかし,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウムを含有する「OS1」をそのまま甲第1号証のEDTAの代わりに用いるという構成が容易に想到される以上,グリコール酸ナトリウムによる効果を見出したことは単なる効果の発見である。ここで留意すべきは,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウムが夫々別の2つの刊行物に記載されていて,2つの刊行物の記載を組み合わせることが容易である,と言うのではないことである。一つの刊行物にひとつの組成物OS1として既に組み合わされているのである。」などとの記載がある(甲8)。これは,甲1文献記載の主引用発明におけるEDTAの代わりに甲3公報記載のグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩とグリコール酸ナトリウムを含有する「OS1」を用いる構成が容易に想到されることを前提とした記載であり,第2判決が,本件発明1における,水酸化ナトリウム,アミノジカルボン酸二酢酸塩類であるアスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分を混合した洗浄剤組成物が,それぞれの相乗効果により優れた洗浄性能を有し,この点は当業者が予測し得ない効果である,と判断したことに対する反論として述べた部分であると解される。第2判決は,第2審判における無効理由(主引用発明を甲3公報ないし甲4公報におけるOS1とした無効理由)について判断した第2審決の判断を是認したものであり,第2審判とは異なる無効理由による無効審判を求めている本件審判について,法律上の拘束力があるものではないものの,当事者が予測し得ない効果と判断した上記部分は,本件審判における無効理由の判断にも事実上の影響力があり得るため,原告は,本件審判における請求書に上記のとおり記載したものと考えるのが合理的であり,この記載は,本件審判において原告が主張する無効理由が前記認定のものであることに何ら影響を与えるものではない。
 また,本件審判の請求書には,「甲第1号証は,そのタイトル「入門キレート化学」とあるように,学生レベルの参考書であり,1988年当時の技術常識を示すものである。甲第3号証のOS1を技術常識に従って使用することを,数年遅れて出願された特許で禁じるのは,不合理である。」とか「甲第1および2号証から周知のように,コンプレクサン型キレート剤をアルカリ条件下にするための典型的なアルカリ物質として本件発明は水酸化ナトリウムを挙げたにすぎない。」とかの記載もあるが,これらの記載も本件審判における無効理由が前記認定のとおりであることと何ら矛盾するものではない。
 なお,原告は,本件審判の請求書において,主引用例とか主引用発明とかの用語を使用せず,本件発明と主引用発明との一致点,相違点も主張しておらず,この点でどの発明が主引用発明であるかについてやや主張の明確性を欠いており,本来は,審判請求書としてはこの点をより明確に記載すべきであった。しかし,本件審判の請求書全体を慎重に検討すれば,その主引用発明を甲1文献記載の発明と解するほかないことは前記認定のとおりである。
(2) 特許発明が出願時における公知技術から容易想到であったというためには,当該特許発明と,対比する対象である引用例(主引用例)に記載された発明(主引用発明)とを対比して,当該特許発明と主引用発明との一致点及び相違点を認定した上で,当業者が主引用発明に他の公知技術又は周知技術とを組み合わせることによって,主引用発明と,相違点に係る他の公知技術又は周知技術の構成を組み合わせることが,当業者において容易に想到することができたことを示すことが必要である。そして,特許発明と対比する対象である主引用例に記載された主引用発明が異なれば,特許発明との一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになるのであるから,主引用発明が異なれば,無効理由も異なることは当然である。
 これを本件についてみれば,本件発明1は,「水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類及びグリコール酸ナトリウムを含有し,水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1~40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物」であるのに対し,甲1文献に記載された主引用発明は,「2%以上の水酸化ナトリウム熱水溶液及びEDTA等のキレート剤を含有するガラス瓶の洗浄剤組成物」であるから,水酸化ナトリウム水溶液とキレート剤を含む洗浄剤組成物の点で本件発明1と一致し(水酸化ナトリウムの含有量も重複している。),キレート剤として,本件発明1が「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸及びグリコール酸ナトリウムを含有」するのに対し,甲1文献に記載された主引用発明は,EDTA等であり,キレート剤の組成において相違するものと認められる。これに対し,本件発明1と第2審判における主引用発明との一致点及び相違点1’ないし相違点4’又は相違点5’ないし相違点8’は,前記認定のとおりであり,これとは明らかに異なるものである。
 また,主引用例は,特許発明の出願時における公知技術を示すものであればよいのであるから,甲1文献のように出願時における周知技術を示す文献であっても,主引用例になり得ることも明らかであり,これを主引用例たり得ないとする理由はない。さらに,主引用発明が同一であったとしても,主引用発明に組み合わせる公知技術又は周知技術が実質的に異なれば,発明の容易想到性の判断における具体的な論理構成が異なることとなるのであるから,これによっても無効理由は異なるものとなる。
 よって,特許発明と対比する対象である主引用例に記載された主引用発明が異なる場合も,主引用発明が同一で,これに組み合わせる公知技術あるいは周知技術が異なる場合も,いずれも異なる無効理由となるというべきであり,これらは,特許法167条にいう「同一の事実及び同一の証拠」に基づく審判請求ということはできない。」

4 検討
 判決の上記結論とおりです。まあそりゃそうだし,特許庁の審判官もそりゃそうだと思っていると思います。

 この事件ね,結局何が問題だったかというと,中盤に下線を引いたところ,「原告は,本件審判の請求書において,主引用例とか主引用発明とか の用語を使用せず,本件発明と主引用発明との一致点,相違点も主張しておらず,この点でどの発明が主引用発明であるかについてやや主張の明確性を欠いており,本来は,審判請求書としてはこの点をより明確に記載すべきであった。」のですわ。

 要するに,主引例発明がはっきりしなかったので,特許庁の審判官も誤解したのだと思いますよ。
 勿論,その点を釈明しなかったのが悪い!ってことで,職権探知主義とは言え,このくらい釈明しても良かったのかもしれません。
 でも,一番悪いのは,誤解されるような記載をした代理人です。これははっきりしています。

 で,原告の代理人の欄を見ると,やっぱ弁理士だけですわ~(審判段階も)。これは弁理士の審判請求書の書き方がダメ!ってやつです。
 
 ここで何度か書いていますが,書き言葉は,他人のための言葉ですので,他人が誤解するようなものってその時点でダメ!なのです。
 審判請求書は,審判官という他人にわかってもらう書類ですので,なめたことをせず,分かりやすく書かねばなりません。

 審判官って仮定的な当業者だから,分かってくれるはず,理解してくれるはず,はず,はず,はず~♡では,こんな面倒なことを招くわけです。
 本件では,誤解したままの審決が下り,審決取消訴訟を提起することになっています。無効審判の提起から,この判決まで約1年半かかっております。時間も,金も無駄です。お客さんがリスクを取らざるを得なくなるのです。

 敢えてまだ言いますが,弁理士に必要なのは,きちんとした国語です。技術の習得も英語の習得も,意識的にやっているからそれなり~ですわ。

 でも,国語の出来って誰も突っ込んでくれないでしょ。
 まあいい大人,しかも資格者に,あんたの書いたやつってさっぱりわからんなあ~って言ってくれる人なんて,なかなかいないわけですよ。だから,下手な国語でも何とかなる気になるわけですね。

 まあ,私も人のこと言えたもんではないですが,ここまで書いてきて,内容の当否は兎も角も,わかりづらいなあ~ってことは無いのではないでしょうか。

 美文や名文を目指す必要はありません。とにかく分かりやすく,これだけです。
 
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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