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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,平成12年(2000年)12月15日(パリ条約による優先権主張1999年12月16日,米国,2000年4月11日,米国,2000年11月28日,米国)を国際出願日とする特願2001-546145号の一部を,平成23年9月12日に分割出願(特願2011-198143号)した原告(ノキア)が,平成25年5月23日付けで拒絶査定がなされたため,同年8月8日付で不服審判を請求するとともに,更なる手続補正(本件補正)を行ったところ,特許庁は,上記請求を不服2013-015336号事件として審理をした上,平成26年6月11日に拒絶審決(進歩性なし)を下したことからこれに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,原告の請求を認め,審決を取消しました。つまりは,進歩性なしとは言えないってことですね。

 まあ,進歩性ですし,逆転ですし,それだけでも注目甲斐もあるのですが,それ以上の何かを感じる事件ですね。

 まずは,クレームからです。
【請求項5】
 分散型ネットワークにおいて,
 前記分散型ネットワークに参加しているいずれかのデバイスに格納されている第1の写真アルバムであって複数のデジタル写真を含む写真アルバムが修正されたことを検出する手段と,
 前記検出結果に基づいて,前記分散型ネットワークに参加している,前記デバイス以外のデバイスに格納されている他の写真アルバムであって前記第1の写真アルバムに関係付けられる他の写真アルバムを前記第1の写真アルバムに自動的に同期させる手段と,
を備える,分散された写真アルバムの集合を自動的に同期させる装置。

 通常,こういうITというか通信関係のクレームって長くてしかも抽象的で,一体何が言いたいのかよくわからないのばっかりですが,これは珍しくわかりやすいです。しかもシンプル~。

 何がやりたいかというと,フォトショップとかで編集しているときに,以下の問題が生じるということです。
【0012】   別の問題は、相互接続されているデバイスのグループの間で分散される多くの関連付けられた画像コピーがあり、画像の何れか1つが変更される場合には、変更された画像と一致するために他を自動的に更新、すなわち同期させる方法がないという事実に関係する。例えば、特定のデジタル画像がデジタル画像の新規バージョンに更新される場合には、他のすべての関係するデジタル画像も、最新のバージョンに更新されなければならない。
 それを解決するためのやり方のようですね。まあ,ただ,この訳もあんまり上等と言えません。とは言え,この技術を日本オリジナルで明細書に書いたとしてもこの程度が関の山かもしれませんがね。

 一致点相違点です。
(一致点)
 分散型ネットワークにおいて,
 前記分散型ネットワークに参加しているいずれかのデバイスに格納されている第1のコンテンツが修正されたことを検知する手段と,
 前記検出結果に基づいて,前記分散型ネットワークに参加している,前記デバイス以外のデバイスに格納されている他のコンテンツであって前記第1のコンテンツに関係付けられる他のコンテンツを前記第1のコンテンツに自動的に同期させる手段と,
を備える,分散されたコンテンツの集合を自動的に同期させる装置。

(相違点)
 補正発明では,コンテンツが「複数のデジタル写真を含む写真アルバム」であるのに対し,引用発明は,コンテンツが「テキストデータ,画像データ,音声データ,コンピュータプログラムなど(ひとまとまりの情報(例えば,1のファイル))である点。

 まあ,このくらいの相違点だとしたら,そりゃあ進歩性はないでしょうけどね・・・。

2 問題点
 上記のとおり,問題点は進歩性なのですが,ここを見ている人はご存知のとおり,今の進歩性の話って論点は2つですね。
 事実認定の問題と法的判断の問題です。

 今回は,そのうちの事実認定の問題です。

 原告の主張の方が早いかな。
2取消事由2(相違点の認定の誤り)
 上述のように,引用発明は,「不特定多数のデータベースへのデータ配信システム」である。したがって,補正発明と引用発明との一致点が審決のとおりであるとしても,補正発明と引用発明との相違点は,当該装置が,補正発明の場合は「分散型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期させる装置」であるのに対し,引用発明の場合は「分散型ネットワークにおいて,不特定多数のデータベースへデータを同期させる装置」である点を,認定すべきであった。
 
 何が言いたいかというと,引用発明は放送のように不特定多数をターゲットとしているものだから,メインの総勘定元帳のようなイメージのメインのデータベースを個々の使用者が更新させるやつであるのに対し,補正発明はそういう一方通行じゃなく,ある所が更新されたり,他の所が更新されたら,双方向的に各々更新するんじゃ!ていうものなのですね。

 似ているけども,ちょっと違う~つーか結構違いますね。

3 判旨
「(1) 補正発明における「第1の写真アルバム」が格納されている「デバイス」とは,請求項の記載上では「分散型ネットワークに参加しているいずれかのデバイス」であればよいから,特定のデバイスに限定されるものではない。また,「同期させる手段」によって「同期」される「他の写真アルバムであって前記第1の写真アルバムに関係付けられる他の写真アルバム」が格納されている「前記デバイス以外のデバイス」も,請求項の記載上では「分散型ネットワークに参加している」デバイスであればよいから,特定のデバイスに限定されるものではない。
 そうすると,ある場合には修正された「第1の写真アルバム」が格納されている「デバイス」が,別の場合には「同期させる手段」によって当該修正に「同期」される写真アルバムが格納されている「デバイス」となることが想定されており,その逆の状況も想定されるから,分散型ネットワークに参加しているデバイスはいずれも,「第1の写真アルバム」が格納されているデバイスとなり得るし,また,「同期させる手段」によって「同期」される写真アルバムが格納されているデバイスとなり得ることとなる。したがって,補正発明の装置においては,分散型ネットワークに参加しているある特定の「デバイス」とそれ以外の「デバイス」と間において,「写真アルバム」変更の検出による関連する他方の「写真アルバム」の自動的な同期が,双方向に行われるものと認められる。
(2) 引用発明は,第2,3(2)ア記載のとおりに認定されるところ,サーバ2及びミラーサーバ7は,更新オブジェクト情報やイベントをその都度受信端末へ提供するが,仮に,受信端末側においてオブジェクトが変更されたとしても,更新オブジェクト情報やイベントが,データベース・サーバないし他の受信端末へ提供されることは想定されていない。すなわち,オブジェクトの変更等の検出による更新オブジェクト情報の提供は,一方向にのみ行われるものと認められる。
(3) そうすると,引用発明は,補正発明における「分散された写真アルバムの集合を自動的に同期させる」との構成,すなわち,ある特定の「デバイス」とそれ以外の「デバイス」と間において,「写真アルバム」変更の検出による関連する他方の「写真アルバム」の自動的な同期を双方向に行う構成に相当する構成を含むものではない。この意味で,補正発明と引用発明との相違点は,補正発明の場合は,「分散型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期させる装置」であるのに対し,引用発明の場合は,「分散型ネットワークにおいて,多数のデータベースへデータを同期させる装置」であると認定すべきである。」

4 検討
 補正発明と引用発明には,双方向か一方向かという大きな違いがあり,そこを見過ごした一致点相違点認定に誤りあり!ってわけです。

 まあこういう点って結構間違いやすいですね。特許庁の誤りがある典型的な例で,こういう点を見つけることができたら,もうそれで勝利ってわけです。

 ところで,今回は,対象がデジタル写真であり,同期するのがその修正だけだったのですが,スマホとかでの写真同期みたいなものは,どうなんでしょうね?

 どうなんでしょうね?っていうのは,これは分割出願なので,他のクレームが他の出願にあるわけです。そうすると,もしかすると,もっと広い対象のクレームがあるかもしれません。
 その場合,一番早い優先日は1999年の12月ですので,それらをつぶそうとすると大変かもしれません。

 そういう意味でちょっと気になった事件でありました。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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