忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 昨日に引き続き倒産法絡みの話にしましょう。
 もう二度と管財人はできなくても,倒産法に関わることもあるさ(シクシク),結局管財人というのは,僕にとって,すっぱい葡萄だったのだ~♫,なーんてね。
 
 倒産法絡みで,知財が問題になるというのは,何点か典型的な状況があります。あ,そうそう,ここでいう倒産法ってえのは,イコール破産法と思っていただいて結構です。
 というのは,会社が継続する民事再生法や会社更生法では,問題にならない場合もありますからね。
 
2 で,まず一点目の問題です。
 破産になると,会社の場合はあの世行きになります。そして,その前提として,プラスの財産(資産)をかき集め,それを売っ払って,破産の原因ともなった借金の弁済に充填するわけです。
 勿論,首が回らなくなって,破産になるくらいですから,資産に比べて借金の方がはるかに大きいことが圧倒的です。しかも,法律上一般の債権者より優先して弁済されるものがありますので(例えば,税金,従業員の給料です。しかし,なかでも一番優先されるのは,破産管財人の報酬です。大体,かき集めた資産の5%程度だとされています。),結局一般の債権者に回ってくるお金は非常に少ないのが通例となります。
 
 さて,そのように資産をかき集めないといけないわけですが,ここに知的財産権が入っているとどうなりますかね。
 会計上の扱いだと,無形固定資産というやつです。不動産の場合は,不動産屋を連れてきて,機械や什器の場合は,そういう処分屋を連れてくれば,適当な価格をつけてもらい,又は入札してもらい,サクサク売り飛ばすことができます。でも,この特許権1個の値段っていくら?となると非常に値付けが難しいであろうことは容易に想像がつきます。
 まず,知財って何だかんだ言われてますが,それ単独の市場(マーケット)なんぞありません。アメリカで,時々やらなくなった事業,つぶれた事業から数百個レベルの特許の取引が報道されておりますが,基本入札でやっております。
 次に,知財の価値といっても,あの企業が使えば,すごく価値があるけれど,この企業が持っていてもライセンス料が入るだけだ,というような,相対的なところが大きく,知財それ自体の価値というのを計るのが難しいということがあります。
 ですので,この辺,よく使われる値付けの方式に順に当てはめると,最初のやつが,マーケットアプローチで,次のやつがインカムアプローチに対応していると思います。まあマーケットアプローチって殆ど使い物にならず,インカムアプローチもライセンス契約がある場合には有効くらいですね。
 とすると,結局,コストアプローチ,つまり,その知財を得るのに,いくらかかったかというやつしか実効性のあるものはないということになります。
 
 ということで,管財人が知財を売り飛ばすときにも,この特許には,弁理士にいくら,特許庁にいくら払ったから,合計で**円,それで買わない?ということなるわけです。
 でも通常,1つ2つの特許やその他知財を持っていても本当役に立つことは殆どありません。って,これ以上書くと知財経営とかその辺のインチキ臭い話になりますので,この辺で。
 
3 次の問題です。より深刻なのはライセンスがあった場合のときです。
 
 別にライセンシーがつぶれてもそりゃどうでもいいのですが(金が入らないというのはありますが。),ライセンサーがつぶれたら非常に心配ですよね。折角,大量生産用の工場を作り,多額の広告宣伝をし,外注ベンダーに発注し,担当者の数だけ正規ライセンス付のパッケージソフトを購入し,・・・たのに,ライセンス契約がぶっ飛んでしまうと,これらはすべて無駄?若しくは新しいライセンサーとまた一から交渉しないといけないわけ?そして,またライセンス料を支払わないといけないわけ?・・・こりゃ大変ですよね。
 
 まず法律の原則を見てみましょう。破産法53条です。
(双務契約)
第五十三条  双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
2  前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
 
 要するに,破産管財人によって,ライセンス契約は解除される可能性があるということです。法律の「その履行を完了していないとき」にあたるのか?え!本当か?という問題がありそうですが,通説的解釈だと,ライセンス契約もこの契約類型に入るようです。そうすると,これは困りますね。
 ただし,例外があります。
(賃貸借契約等)
第五十六条  第五十三条第一項及び第二項の規定は、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約について破産者の相手方が当該権利につき登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合には、適用しない。
 すなわち,第三者対抗要件を具備していると,管財人が解除することができないのです。
 
 さらに,第三者対抗要件を具備していると,もっとよいこともあります。
 結局,破産で何が困るかというと,管財人の解除の問題より,知財権が別の人,別の会社に移る場合です(最初の問題とも絡みます。)。
 勿論,上で述べたように,価額が大した額でない場合は,管財人が買いませんかねえと言っているときに,それを買っちまった方がよいかもしれません。しかし,上記にも書きましたが,管財人の報酬は,かき集めた資産に比例します。足元を見られるのは当然ですね。そうすると,値段が釣り上げられ,下手すればライバル企業に買われてしまうかもしれません。そうした場合に,第三者対抗要件を備えていないと,新たなライセンサーに自分がライセンシーだと言えなくなってしまいます。これが非常に困るわけです。
 
 で,特許の場合,今年の3/31までは,ライセンスを特許庁の原簿に登録しないと第三者対抗要件は生じませんでした。でもそんなクソ面倒くさく,しかもライセンス条件がバレバレのようなことは普通はしたくありません。でも,登録しないと,新ライセンサーに対抗できないし,・・・というジレンマに陥っていたのです。
 それが,去年の法改正で,登録しなくても対抗できるようになったので,めでたしめでたしというわけです。ちなみに,特許法の改正は,実用新案,意匠にも準用規定があります。これが巷で言っている当然対抗制度です。
 
 他方,商標には改正特許法の準用規定がなく,従前とおりの登録が第三者対抗要件にはなるのですが,まあ商標は一商品一商標でしょうから,そんなに問題が生じないのでしょう。それに,仮に特許と同様の当然対抗制度をとると,新ライセンサーの商標とライセンシーの商標が一緒となり,出所の混同を生じてしまうことになります。ですので,商標法の制度上,当然対抗なんぞ無理!というのがわかりますね。
 
 じゃあさらに,著作権法ではどうなのか?ということになります。しかし,著作権法上,ライセンス(使用権)に関する明示の規定は、63条以外大してありません。当然,第三者対抗要件に関する規定もありません。不思議でしょ~?
 まあというのは,結局著作権の本質って,英語でいうコピーライトなわけです。日本語でいうと複製権が本質,ということなのですね。他方,ライセンスの本質って何でしょう。使えりゃあいいわけです。ところが,使えること,すなわち,使用権って,著作権の支分権には基本存在しません。つまり,著作権者は使用権を専有していないのです(特許法の場合,2条3項の「実施」中,「使用」が入っているのと対照的です。)。
 ですので,本をコピーしたり,CDを焼いたり,テレビ番組を録画したり,ゲームソフトをコピーしたりということには,てめえこらーって言えるのですが,本を読んだり,音楽を聞いたり,テレビ番組を見たり,ゲームで遊んだり,という本質的使用にはてめえこらーっと言えないわけです。ただ,契約自由の原則から,使用・収益の一部を制限された形態での契約を行い(これが著作権のライセンス契約),それに基づいてコンテンツ等を楽しんでいるというわけなのです。
 
 ですので,普段のときは,使えりゃいいということになりますが,ライセンサーが倒産のときは困ります。いや,勿論,本とかCDとか,現物のあるものについては,正当権原者からの譲渡品ということで,著作権は消尽していますので,よいのですよ。
 問題なのは,皆さんの見ているようなパソコンのソフト等です。本とかのように,パッケージソフトまで買っている場合は大丈夫なのですが,そういうのがない場合,特に,企業間でのシステム構築なんて場合,ライセンサー倒産では困ってしまいます。第三者対抗要件がありませんので,旧ライセンサーからのライセンスは,通常一旦切れます(管財人が解除しなくても,ライセンシー以外に著作権を売り飛ばせば,その時点でライセンスはなくなったも等しいことになります。)。それを防ぐには,通常,足元を見た管財人から,高いお金を出して,著作権ごと買い取るか,二重支払となる新ライセンサー提示のライセンス料を支払うかということになります。
 
 どちらにせよ,ライセンシーの地位は非常に不安定です。不動産用語で言えば,地震売買並ですね。
 
 ところが,上記のような,相手方のある,タフな交渉事項に立ち入らずにうまく処理する方法もないことはないです。それが昨日,SOFTIC(Software Information Center)まで説明会を聞きに行ったエスクロウです。いやあ相変わらず長い前置きですね。

 どういうことかというと,ライセンサーたるベンダーからプログラムの著作物の複製物をSOFTICが預り,ベンダーに有事が発生したときに,ライセンシーたるユーザーにその複製物を渡すということです(複製物の所有権がそれぞれ移転します。)。そうすると,著作権法47条の3により,限られた範囲ではありますが,使用以外の複製や翻案もできるわけです。更に,ソースコードの開示なんてしてもらえない場合も多いと思いますが,エスクロウ用の複製物にソースコードまで入れてもらえれば,ベンダー沈没でアップデートできないということも防止できます。なんて頭の良い制度~♫,というか,現状ライセンサーの倒産に対抗できる唯一の制度のような気がします。
 昨日の,そのSOFTICの説明会は,エスクロウの外にプログラム著作物の登録の制度の説明もあったので,非常に勉強になりました。担当者によると,こういう説明会をやったのは初めてだったそうです(ホントかよー)。
 
 私は従前よりエスクロウの制度は知ってはいたのですが,特許法の改正と絡めて極めて実践的に理解できたという気がします。
 
 結構長く書きましたね。ステマだったってわかりましたか~。あ,SOFTICじゃないですよ。あくまで,私の仕事のステマです。
PR
470  469  468  467  466  465  464  463  462  461  460 
カレンダー
10 2017/11 12
S M T W T F S
3 4
5 7 8 11
12 13 14 15 16 18
19 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]