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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本日はノーベル物理学賞の発表ということです。

 受賞者は,米ローレンス・バークリー国立研究所のソール・パールマター博士、オーストラリア国立大のブライアン・シュミット博士、米ジョンズ・ホプキンス大のアダム・リース博士で,「遠距離の超新星観測を通じた宇宙の膨張加速の発見」らしいです(asahi.comより)。この分野,日本人も結構活躍している分野ですが,残念でしたね。

 中身はというと,ビッグバンが進み,重力でそのうち膨張が止まり,宇宙は将来収縮すると考えられていた従来の考えに対し,いやいや重力に打ち勝つエネルギーがあって,それが宇宙の膨張スピードを加速させている,という考えを超新星の観測から導きだしたというものです。
 私も,ある程度はわかるのですが,何故遠距離の超新星の観測から,そのような結論が導き出せるのかはよくわかりません。所詮半可通ですからね。

 ところで,昨年は応用,今年は基礎,と物理学賞は応用(工業と言ってもよいでしょう。)と基礎の交互のパターンが多いと思います。
 そこで,物理出身で,エンジニア出身の私としても、都知事選の泡沫候補よろしく、応用系のノーベル物理学賞候補に名乗りをあげてみました。基本与太話ではあるのですが、我慢して全部読めた方は、おっ確かに全く絵空事でないなあ、との感想も抱ける~かもしれません。
 
2 皆さんは、歪みシリコンという技術を知っていますか?
 ウィキペディアによると、「半導体演算素子の高速化技術の1つである。」とあります。これは、シリコンの結晶に歪みを加えて、格子間の距離を広げ、移動度を向上させる技術です。
 2001年くらいにIBMから発表があった後、あっという間に広がり、今では、半導体のデフォー技術の一つになっております。移動度が向上するので、小さいトランジスタ(W/LのWがとれない。)でも、大きなトランジスタと同じくらいの電流駆動能力があるのですね。微細加工には欠かせないというわけです。
 で、それがあんたと何の関係が?ということなろうと思います。
 
3 それは、今からちょうど20年前に遡ります。
 当時、エンジニアになりたての私は、同僚と一緒に高温ポリシリコン型のTFTを用いたLCD(ハンディカムのビューファインダー用)の開発のためにソニー長崎におりました(私の担当は、そのTFTのデバイス開発でした。)。
 このブログの他の記事で書いたこともあるのですが、それまでハンディカムのビューファインダーは、エプソン製だったのですが、ようやく自社開発品の目処が立ったというわけです。
 ただ、我々のグループの前には、大きな問題が立ちはだかっておりました。基板の反りの問題です。工程のかなり進んだ後半の工程で、ときどき非常に大きく反った基板のため、搬送エラーになってしまうという問題です。基板の反りが大きいので、ロボットアームの真空吸着ができないのです。

 そして、私は、この問題の解決グループの一員となりました。紆余曲折は多少あったのですが、工程ごとの反りを測っていくなどして、どうやら層間絶縁膜に使用していたSiNの成膜工程後に集中してそのような反りの大きな基板が見つかるということがわかりました。
 当時、SiNの成膜は、半導体の製造にも用いられていたプラズマCVD装置で成膜していたのですが、これが癖のあるものだったのですね。

 まず、CVDというのは、Chemical Vapor Depositionの略で、気体間での化学反応を起こして、成膜するという技術です。この化学反応を起こすにはエネルギーが必要なのですが、プラズマCVDでは、このエネルギー源をプラズマとしているものです。
 プラズマは高電界が必要ではあるのですが、熱はさほど必要でないため、デバイスにもう熱をかけたくないんだよなあというような工程に合っております。当時のソニー長崎でプラズマCVDを用いていたのは、正にそのような理由からでした。

 つぎに、癖というのは、LCDに特有なものです。当時のプラズマCVDの装置は半導体の製造では定評のある装置でした。それがLCDの製造に使ったとたん暴れ馬となってしまったのです。
 というのは、LCDの場合、光を透過させる関係上、透明の基板を使わなければならず、半導体で用いるシリコン基板と異なり、通常、全く導電性のない絶縁基板なのです。

 そうすると、どうなるか、プラズマの知識がちょっとでもあると予想がつきますね。プラズマ発生のためには、高電界が必要だと上で述べました。にもかかわらず、絶縁基板を用いると、基板上のグランドレベルが不安定となり(というかそもそもグランドがとれない。)、シリコン基板と同様の条件で成膜したとしても、どのくらいの電界がかかっているのかわからず、きちんとした成膜ができないのです。
 そのようなことが起きているとは当時誰も気がつきませんでした。そして、そのような条件でのプラズマCVDで成膜したSiNの膜には恐るべき応力が発生していたのでした。そのため、ロボットアームで吸着し切れないだけの基板の反りも発生したというわけです。
 
 このようなことがわかり、プラズマCVD装置については、シリコン基板用の条件で成膜するのではなく、絶縁基板特有の条件を設定することにし、また、マスクのパターンも変更し、成膜したSiNの膜を極力取り除くようにして、反りの問題は解決しました。
 
 他方、当時、その問題と平行して、違う問題も発生しました。
 実は、全部の基板について反りが大きいとしてはねられるわけでなく、中度の反りのやつもありました。そのようなものが最後の工程まで進み、工程完了時のチェックを受けるとTEG(評価用のテストパターンのこと)に内包しているNchのトランジスタが異常なデプレッション(閾値電圧Vthが小さくなる現象)になっていたのです。
 慌てて、工程の途中ではねられた大きな反りの基板のやつも手動でVg-Idカーブを測定するとやはり異常なデプレッションでした。しかもPchがエンハンス(デプレッションとは逆に、閾値電圧Vthが大きくなる現象)に行っているようないわゆるVthのずれではなく、Vg-Id(ゲート電圧を横軸に、ドレイン電流を縦軸にしたグラフ)カーブがとんでもなく急峻になっているという現象でした(デプレの傾向はNchトランジスタで顕著なものでした。)。
 急峻になればオン・オフ比が高くなりますので、デプレッションに行ったように見えるわけですね。そう、オン・オフ比が高く、Vg-Idカーブがとんでもなく急峻になったということは、移動度がアップしたということです。つまり、異常なSiNによる巨大な応力がトランジスタにかかって移動度が向上したというわけです。
 
 力が電気的特性に影響を及ぼすことは従来からよく知られております。ピエゾ素子をはじめとして、ライターの着火装置などの圧電素子はその典型です。
 ただ、応力により、半導体の移動度などが変化するということはあまり知られていなかったのではないでしょうか。ですので、2001年の歪みシリコンの発表も話題となったのだと思います。
 
4 ただ、当時ここまで、わかっていたのですが、世間的には、IBMが歪みシリコンの一番乗りとなりました。
 残念ながら、ソニー長崎にいた我々ではなかったのです。
 なぜ我々がIBMとはなりえなかったか、ここが問題になると思います。

 それは、当時、上に書いた現象は、あくまで歩留まりを落とす改善すべき悪い現象と認識されていたからにほかなりません。一番の目標は、安定して生産できる体制を早期に構築することであり、学術的には興味深くてもイレギュラーな現象に関与する余裕などはありませんでした。

 ですので、ある程度の現象のメカニズムがわかった段階で、この歪みシリコンのことは忘れ去られました。そして、私も、今と異なり特許なんて縁もゆかりもないものだと思っていましたので、この内容を特許にまとめるということもしませんでした(先発明ならOKでしょうけど。)。
 さらに、研究者を諦めてすぐのころですから、この内容を論文にまとめるなんていうことも考えませんでした。ただ、その年の後半のソニー内部の研究発表会には上記の事象を簡単なレポートにまとめ、一応発表しておきました。その主催は、今は亡き中央研究所でしたね。
 
 それから、月日も経ち、エンジニアも辞め、ソニーも辞め、修習生になった私は、エンジニア時代に愛読していた日経マイクロデバイス(残念ながら、一昨年休刊になってしまいましたが。)を再度購読しておりました(特許弁護士として身を立てるための、技術のコソ勉ですね。)。

 そうすると、しょっちゅう、歪みシリコンの話題が出ます。そして、ある号での技術解説の内容を見て驚きました。
 これは、昔、長崎で問題になったやつじゃん!いやああのときもうちょっと詰めていれば・・・。

 こういうことって本当にあるのですね~。まあ、こういうことをちゃんと自分のものにできなかったわけですので、ある意味転職は正解ですよね。
 ただ、歪みシリコンの話がある度に、心の奥で、いや、あれはIBMよりも10年も前にソニー長崎で発見していたのに・・・と思っております。
 ですので、仮に歪みシリコンがノーベル賞をとるようなことがあるとしたなら(歪みシリコンじゃちょっと小物すぎやしませんか,という突っ込みは取り敢えず無視!)、それはまず私~と妄想を膨らませてもいます。
 
5 どうですか、全部読んでいただいた方にはまんざら嘘八百じゃないなあという感想を持っていただいたのではないでしょうか。
 ですので、ノーベル物理学賞の候補に名乗り!というわけです。
 
 本日、4月1日でしたかね。まあ今日は,月に一度の出稼ぎの日でしたので,帰りの新幹線で妄想を広げていた次第です。さ,仕事仕事。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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