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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 知財の弁護士の間で,密かに(そんなに密かでもないか)話題となっていた,文京区の光源寺にあるいわゆる「駒込大観音」の仏頭のすげ替え事件というものがあります。

  そして,今朝の朝刊に掲載されていたように,今般最高裁第3小法廷が,この事件について,上告棄却の「決定」をしたということで,二審の判断が確定したということになります。
 最高裁の判断については,データベースへの登録がさすがにまだのようで,中身がよくわかりませんので,詳細を語ることはできません。

ですので,1審から振り返り,特に2審をクローズアップしましょう。

2 一審 東京地裁H21.5.28判決(H19(ワ)23883号)
(1)概要
  本件は,原告(三男坊)が,原告の亡父D1(亡D2),亡兄E1(亡E2)及び兄F1(F2,廃業)と共同で制作した美術の著作物である別紙物件目録記載の観音像(これが駒込大観音)について,その原作品の所有者である被告光源寺が亡D2及び亡E2の死後に被告C1(被告C2、この家系の弟子)に依頼して仏頭部をすげ替えて,公衆の観覧に供していることが(以下,仏頭部すげ替え前の観音像を「本件原観音像」,仏頭部すげ替え後の観音像を「本件観音像」といいます。),本件原観音像に係る原告の著作者人格権(同一性保持権)及び著作権(展示権)の侵害又は原告の名誉若しくは声望を害する方法による著作物の利用行為(著作者人格権のみなし侵害)に当たり,かつ,亡D2及び亡E2が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為に当たる旨主張し,被告光源寺に対し,①著作権法112条1項,115条,113条6項に基づき又は亡D2及び亡E2の遺族として同法116条1項,112条1項,115条に基づき,本件観音像の仏頭部を同観音像制作当時の仏頭部(すなわち,本件原観音像の仏頭部)に原状回復するまでの間,本件観音像を一般公衆の観覧に供することの差止めを,②同法112条2項,115条,113条6項に基づき又は亡D2及び亡E2の遺族として同法116条1項,112条2項,115条に基づき,本件観音像の仏頭部を本件原観音像の仏頭部に原状回復することを求めるとともに,被告両名に対し,③原告の著作者人格権侵害又は著作者人格権のみなし侵害の不法行為に基づく損害賠償(被告光源寺に対しては上記原状回復するまでの間の将来分の損害賠償を含む。)を,④同法115条に基づき並びに亡D2及び亡E2の遺族として同法116条1項,115条に基づき,原告,亡D2及び亡E2の名誉又は声望を回復するための適当な措置として別紙謝罪広告目録1及び2記載の謝罪広告を求めた事案です。

  要するに,光源寺は,空襲で焼けた駒込大観音の再建を,ある一族経営の仏師に依頼したのですね。
 そうしたところ,できあがった大観音の「お顔」の評判が芳しくなく,光源寺は,今回の原告に,仏頭の作り替えを依頼したわけなのです。ところが,原告は,これを拒否!光源寺は,いろいろ考えあぐねた結果,もとの仏師の弟子(今回の相被告)に依頼して,この弟子が仏頭を作り替え,光源寺はこの仏頭を評判の芳しくなかった仏頭とすげ替えた,というわけです。

 これに怒った原告が,今回の訴訟を提起したということになりますが,一審では,どちらかといえば,固有の請求に重きをおいたような請求です。

(2)判旨
「そして,本件全証拠によっても,原告が本件原観音像の制作に創作的に関与したことを認めるに足りない。
したがって,原告が本件原観音像の共同著作者であるものとは認められない。
(3) 以上によれば,原告は,本件原観音像について著作者人格権及び著作権を有するものとはいえないから,これを有することを前提とする原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。」
「本件原観音像は,木彫十一面観音菩薩立像であって,11体の化仏が付された仏頭部,体部(躯体部),両手,光背及び台座から構成されているところ,11体の化仏が付された仏頭部が,著作者であるE4の思想又は感情を本件原観音像に表現する上で重要な部分であることは明らかである。
そうすると,本件原観音像の仏頭部のすげ替えは,本件原観音像の重要な部分の改変に当たるものであって,E4の意に反するものと認められるから,本件原観音像を公衆に提供していた被告光源寺による上記頭部のすげ替え行為は,E4が存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条本文)に該当するものと認めるのが相当である。」
「したがって,原告は,E4の遺族として,著作権法116条1項,115条に基づき,被告光源寺に対し,訂正するために適当な措置として,本件観音像について,その仏頭部を同観音像制作当時の仏頭部(本件原観音像の仏頭部)に原状回復することを求めることができるというべきである。」

(3)検討
 結局固有の請求については認められず,認められたのは,長兄の遺族としての請求のみで,さらに,そのうち,原状回復のみ(要するに,元の仏頭に戻せ)が認められたに過ぎず,観覧禁止や損害賠償や謝罪広告は認められませんでした。
 ただ,原状回復が認められたのは大きかったですね。

 原告,被告とも控訴したのが,控訴審ということになります。

2 控訴審 知財高裁H22.3.25(H21(ネ)10047号)
(1)概要
 省略しますが,原告は,控訴審で,遺族や相続人としての請求を若干追加しております。

(2)判旨
「下記の諸般の事情を総合考慮するならば,①原告が求める謝罪広告中(訂正広告を含む。),その客観的な事実経緯を周知するための告知をすることで,Rの名誉,声望を回復するための措置としては十分であり,②仏頭部を本件原観音像制作当時の仏頭部に原状回復する措置や謝罪広告を掲載する措置,公衆の閲覧に供することの差止めについては,いずれも,Rの名誉,声望を回復するための適当な措置等とはいえないものと解する。前記認定のとおり,①本件原観音像は,被告光源寺の前住職が,戦災により焼失した「旧駒込大観音」を復興し,信仰の対象となる仏像にふさわしい観音像を制作することを目的として,Rに対し,依頼したこと,②しかし,Rが制作した本件原観音像は,本件観音堂に安置された状態では,拝観者が見上げることになり,対面した拝観者に対しては,驚いたような表情,又は睨みつけるような表情となったこと,③被告光源寺現住職のAは,そのような表情について違和感を感じて,本件原観音像の眼差しを修繕することを希望し,Rに対し,本件原観音像の左右の眼の修繕を依頼したこと,④その依頼に応じて,原告が,一旦は,本件原観音像の眼差しの修繕を試みたが,結局,本件原観音像の表情を補修することができなかったこと,⑤被告光源寺のAは,被告Yに対し,本件原観音像の眼差しの修繕の相談をしたところ,被告Yは,仏頭部の一部のみを残して,前面のみを作り変えることは,かえって,失敗する危険性があると助言をしたこと,⑥そこで,Aは,被告Yに,仏頭部を新たに制作し,仏頭を交換することを依頼し,被告Yは,そのような方法によって,本件観音像を作り替えたこと,⑦被告Yは,Rの弟子として,長年にわたり,その下で制作に関与し,本件原観音像についても,制作開始から木彫作業が終了するまでの全制作行程(漆塗り,金箔貼りを除く。)に精力的に関与して,Rの創作活動に協力し,補助してきた者であること,⑧本件原観音像から取り外した仏頭部(すげ替え前の仏頭部)は,その原形のままの状態で本件観音堂に保管されており,第三者が同仏頭部の形状を拝観することは不可能でないこと,⑨仮に,被告光源寺は,本件観音像について,その仏頭部を観音像制作当時の仏頭部に原状回復することを命じられた場合,同被告は,一旦は,原状回復措置を講じても,その後すみやかに,いわゆる「お焚き上げ」と称する方法により,本件原観音像全体を焼却する措置を講ずることが推測され,結局のところ,Rの名誉,声望等が回復される目的が十分に達成できるとはいえないこと等諸般の事情を総合考慮するならば,原状回復の措置は,適当な措置ということはできない。」

「すなわち,被告らによる本件観音像の仏頭部のすげ替え行為は,確かに,著作者が生存していたとすれば,その著作者人格権の侵害となるべき行為であったと認定評価できるが,本来,本件原観音像は,その性質上,被告光源寺が,信仰の対象とする目的で,Rに制作依頼したものであり,また,仏頭部のすげ替え行為は,その本来の目的に即した補修行為の一環であると評価することもできること,交換行為を実施した被告Yは,Rの下で,本件原観音像の制作に終始関与していた者であることなど,本件原観音像を制作した目的,仏頭を交換した動機,交換のための仏頭の制作者の経歴,仏像は信仰の対象となるものであること等を考慮するならば,本件において,原状回復措置を命ずることは,適当ではないというべきである。

以上の事情によれば,Rの名誉声望を維持するためには,事実経緯を広告文の内容として摘示,告知すれば足りるものと解すべきであり,別紙広告目録記載第1の内容が記載された広告文を同目録記載第2の新聞に,同目録記載第2の要領で掲載することが相当であると解する。また,法115条所定に基づき,公衆の閲覧に供することの差止め等を求めることも適当でない。」

(3)検討
 二審でも長兄の遺族としての請求は認められております。ただ,問題となったのは,権利の実現方法です。
 一審では,原状回復が認められたのですが,二審では,謝罪?広告のみが認められたに過ぎず,原状回復は認められなかったのです。ちなみに,二審は,飯村さんの知財高裁第3部です。

 私が個人的にポイントだと思うのは,「お焚き上げ」でしょうか。弁論主義である以上,被告が主張したのでしょうが,ある意味脅しです。つまり,原状回復しろというのなら,全部燃やしてやる,ほんで,また一から誰かに頼むぞ,へへーんだ,というやつですね。それじゃあ元も子もなく,エコでもないので,二審としては,新聞に謝罪まで至らない事実の広告のみやればよいとしたのですね。

 権利侵害が認められた場合の権利の実現方法としては,民事上も少ないながら種類はあります。しかし,今回はかなり限定的でした。ただ,これはこれとして,是認することができると思います。やっぱりお焚き上げはまずいでしょうからね。

 そして,この二審が今回確定したということになります。


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