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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,上告人である1審原告らが,北朝鮮で製作された本件映画の一部を1審原告らの許諾なく放送したAを承継した被上告人(1審被告,フジテレビジョン側)に対し,① 主位的に,本件映画を含む北朝鮮で製作された同目録1ないし3記載の各映画(本件各映画)は北朝鮮の国民の著作物であり,ベルヌ条約により我が国が保護の義務を負う著作物として著作権法6条3号の著作物に当たると主張して,本件各映画に係る1審原告X2の公衆送信権(同法23条1項)が侵害されるおそれがあることを理由に,1審原告X2において本件各映画の放送の差止めを求めるとともに,Aによる上記の放送行為は,本件各映画について1審原告X2が有する公衆送信権及び1審原告X1が有する日本国内における利用等に関する独占的な権利を侵害するものであることを理由に,上記各権利の侵害による損害賠償を請求し,② 原審において,予備的に請求を追加し,仮に本件映画が同法による保護を受ける著作物に当たらないとしても,上記放送行為は,1審原告らが本件映画について有する法的保護に値する利益の侵害に当たると主張して,不法行為に基づく損害賠償の支払を求める事案です。

 まあ要するに,フジテレビ(あと日テレちゃんも被告でした。)が,北朝鮮のヘンテコぶりを報道したくって,北朝鮮の記録映画を勝手に放送したため,権利者側と諍いになったってことですね。

 これはかなり有名な事件で,一審は,被告が日テレちゃんのものが,東京地裁判決平成19年12月14日(平成18(ワ)5640号)で,被告がフジテレビのものが,東京地裁判決平成19年12月14(平成18(ワ)6062号)です。
 この一審では,「ベルヌ条約3条(1)(a)の条項は,国際社会全体に対する権利義務に関する事項を規定するものと解することができず,北朝鮮との関係で同条項の適用は認められないから,結局,我が国は,同条項に基づき北朝鮮の著作物を保護する義務を負わない。」ということで,原告(北朝鮮側)の請求を棄却したのでした。

 この判決が出たときは,結構話題になりました。未承認国だからって同じ条約に入っているわけなのに,おっとと~等です。色んな評釈も出ました。その辺は各自で自習してください。

 そして,北朝鮮側は,フジテレビのやつのみ,控訴しました(この辺の経緯は不明です。私の使っているデータベースの情報によります。)。
 これが,知財高裁平成20年12月24日( 平成20(ネ)10011号)です。ここで,北朝鮮側は,予備的に請求を追加しました(仮に本件各映画著作物が著作権法の保護を受ける著作物に当たらないとしても,脱退被控訴人が上記映画の映像の一部を控訴人らの許諾を得ることなく放映した行為は,控訴人らが同映画について有する法的保護に値する利益の侵害に当たるとの主張で,民法709条に基づく損害賠償請求)。

 これについて,知財高裁は主位的請求については,やはり請求棄却,しかし,予備的請求については,一部請求を認めました。
 主位的請求を棄却した論理は基本一審通りですが,予備的請求を認めたのは,「約6分間のテレビ番組中で2分間を超える放映をすることは,それ自体としては相当な時間の利用であるといえること等の事実に照らすならば,脱退被控訴人が控訴人カナリオ企画に無断で営利の目的をもって本件無許諾放映をしたことは社会的相当性を欠く行為であるとの評価を免れず,本件無許諾放映は,控訴人カナリオ企画が本件映画の利用により享受する利益を違法に侵害する行為に当たると認めるのが相当である。」としたのです。
 そのため,この知財高裁の判決もまた話題になりました。やはり,色んな評釈が出ました。有名なものは,著作権判例百選の113の横溝教授のものでしょうかね。

 ほんで,今回は,いよいよ最高裁での最終決着ということになったわけです。

2 判旨
 主位的請求について 「一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当これをベルヌ条約についてみると,同条約は,同盟国の国民を著作者とする著作物を保護する一方(3条(1)(a)),非同盟国の国民を著作者とする著作物については,同盟国において最初に発行されるか,非同盟国と同盟国において同時に発行された場合に保護するにとどまる(同(b))など,非同盟国の国民の著作物を一般的に保護するものではない。したがって,同条約は,同盟国という国家の枠組みを前提として著作権の保護を図るものであり,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではない。
 そして,前記事実関係等によれば,我が国について既に効力を生じている同条約に未承認国である北朝鮮が加入した際,同条約が北朝鮮について効力を生じた旨の告示は行われておらず,外務省や文部科学省は,我が国は,北朝鮮の国民の著作物について,同条約の同盟国の国民の著作物として保護する義務を同条約により負うものではないとの見解を示しているというのであるから,我が国は,未承認国である北朝鮮の加入にかかわらず,同国との間における同条約に基づく権利義務関係は発生しないという立場を採っているものというべきである。
 以上の諸事情を考慮すれば,我が国は,同条約3条(1)(a)に基づき北朝鮮の国民の著作物を保護する義務を負うものではなく,本件各映画は,著作権法6条3号所定の著作物には当たらないと解するのが相当である。」

 予備的請求について 「著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって,ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利は,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」

3 検討
 主位的請求については,このとおりなんでしょうね。基本著作権はいわゆる人権ではありませんので,あるときは保護され,またあるときは保護されない,ってことでいいと思います。
 てなことを書くとキーっとなる向きもありましょうが,そもそも著作権って寿命のあるものですからね。

 他方,予備的請求についても,結論はこれで良いと思いますが,別段の考慮が必要な気もします。つまり,この判決の射程が意外と広いんじゃないかいな,という所です。
 著作権などで保護されないものについて,未来永劫とにかく保護されないというのではなく,民法709条で保護される場合もあるというのが通説だと思います(例えば,有名な事件として,木目化粧紙事件,東京高判平成3年12月17日があります。)。
 著作権などの知財法で保護されないとしても,他人の苦労,汗にタダ乗りする奴は許せないという常識に沿った形での解決を図ったものです(デッドコピー法理だとか言うらしいですね。)。

 このような通説からすると,最高裁の規範だと,民法709条で保護される場合が若干狭いような気がするのです。というのは,最高裁は,例外的に保護する場合を「異なる法的に保護された利益を侵害する」とだけ,明記しており,かなり限定しているような感があるからです。
 まあ著作権その他の知的財産権って,政策的なものと言ってよいですから,保護のボリュームの目盛りを多少上げ下げしてもよいとは思いますけどね。
 
 まあともかく,私は予備的請求についての判決の射程が気になったということでした。

 で,蛇足です。

4 蛇足
 上で判決の射程,射程と書きましたが,これはある意味おかしな話ですよね。だって,日本は制定法(大陸法)の国ですから。
 判決の射程を考えなくちゃいけないのは,英米のようなコモンローの国々ですね(蛇足の蛇足ですが,弁理士試験に受かった後,一般法に興味を持ち始めたときに驚いたのは,アメリカに民法がない!ってことですね。言われりゃそうかな~と思いますが,本当にそういうことなのです。)。

 じゃあ日本のような制定法の国では何を検討するかというと,これが要件事実になるわけです。つまり,制定法の国では要件事実が重要であり,コモンローの国では判決の射程が重要になるということです。もっとも,アメリカでもUSC35(特許法のこと)のように制定法はあるし,日本でも上記のように判決の射程が問題になったりはするわけです。しかし,原則をおさえるというのは大事です。

 考えてみると,この「判決の射程」と「要件事実」というのは,ある意味水と油のような所があります。
 どういうことかというと,判決の射程という概念は,平たく言うと,個別・具体的な個々の事件から,いかに一般的・抽象的な規範を引っ張り出すかという話です。
 他方,要件事実という概念は,一般的・抽象的な法規範を,どう個別・具体的な個々の事件に適用するかという話です。つまり,全く逆なのですね。
 前者は,いわゆる帰納的な概念であり,後者は演繹的な概念です。まあこの辺,いわゆる大陸哲学と,イギリス経験論の違いにまで至る感があり,面白いものです。

 誰かこの辺のことを詳しい本を知らないかなあ,又は書いてくれないかなあ~♪
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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