忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,被告会社(株式会社てらぺいあ)が出版する別紙書籍目録記載1の書籍(本冊,「基幹物理学―こつこつと学ぶ人のためのテキスト」)及びその分冊である同目録記載2及び3の各書籍(分冊Ⅰ:「基幹物理学 分冊Ⅰ力学-こつこつと学ぶ人のためのテキスト-」及び分冊Ⅱ:「基幹物理学 分冊Ⅱ熱学・数学の復習-こつこつと学ぶ人のためのテキスト-」)に関して,
(1) 亡W(京大の名誉教授で核物理学者の故星崎憲夫先生です。)の相続人である原告X1,原告X3及び原告X2(原告X′)並びに原告X4(町田茂先生)が,本件著作物(本冊の本文部分)が亡W及び原告X4の共同著作物又は亡Wの原稿を原著作物とする原告X4の二次的著作物であるにもかかわらず,被告らが著作者名を被告Y3と表示して分冊Ⅰを出版したことが,亡W及び原告X4の氏名表示権を侵害し,これを理由に本件著作物に係る出版契約を解除したなどと主張して,
① 原告らが被告会社に対して,原告らの著作権に基づき(分冊Ⅰについては,予備的に,原告X1による亡Wの死後における人格的利益保護措置請求権に基づく請求及び原告X4による氏名表示権に基づく請求として),本件各書籍の出版等の差止め並びに本件各書籍及びその印刷用原版の廃棄を求めるとともに,被告会社の本件著作物に係る出版権原の不存在の確認を求め,
② 原告X1が亡Wの死後における人格的利益保護措置請求権に基づき,原告X4が氏名表示権に基づき,それぞれ被告らに対して,分冊Ⅰの著作者名表示に係る謝罪広告の掲載を求め,
③ 原告らが被告らに対して,分冊Ⅰの著作者名表示に係る共同不法行為に基づく慰謝料及びこれらに関連する弁護士費用並びにこれに対する平成22年11月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求め,
(2) 原告らが被告会社に対し,本件各書籍の出版契約に基づく印税及びこれに対する平成22年11月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの商事法定利率による遅延損害金の支払を求め,
(3) 原告X1が被告会社に対し,被告会社との間で締結した出版助成金提供契約が錯誤により無効であると主張して,不当利得返還請求権に基づき,提供した出版助成金の返還及びこれに対する平成20年7月1日(出版助成金の最後の提供日の翌日)から支払済みまでの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求める事案です。

 これに対して,東京地裁民事40部(東海林さんの合議体です。)は,原告らの請求を一部認めました。

 ニュースにもなったので,ご存知かもしれませんが,著作者としての表示が問題となった事件です。

2 問題点
 著作者としての表示ですから,著作者人格権の氏名表示権が問題となることは明白ですね。あ,こんなことわざわざ説明する必要もないかもしれませんが,著作権法には,所謂著作権の他に著作者人格権と著作隣接権の規定もあります。

 氏名表示権の19条を見ましょう。
(氏名表示権)
第十九条  著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。
 3項も結構重要です。
3  著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。
です。

 良い本の著作者が亡くなった後,その本の改訂版が,何故か出版されることがあります。法曹に一番有名なものと言えば,芦部先生の「憲法」でしょうね。今アマゾンで見たら,2011年の改訂で第5版になっております。芦部先生亡き後は,高橋和之先生が補訂を担当しております。しかし,著作者と大きく載っているのは,芦部先生ですね。
 他方,知財関係者に一番有名なものは,吉藤先生の「特許法概説」でしょうね。1998年の13版以来改訂されておりませんが,ご存知のとおり,吉藤先生が亡くなられたのは,そのちょっと前です。ですので,しばらくは,熊谷健一先生が補訂を担当されておりましたね。しかし,やはり,著作者と大きく載っているのは,吉藤先生ですね。

 ということは,何かもう結論が出たような話ではありますが,一応見てみましょうか。

3 判旨
「前記第2,2(2)イ及び同(9)によれば,被告Y3は,本冊の第Ⅰ部・第1章「力学」の部分を分冊とする趣旨で,その記述をできるだけ尊重しつつ,そこに若干の修正を加えて,分冊Ⅰの原稿を執筆したものであり,分冊Ⅰには,上記部分に加えて,「付録A」として,本冊の「付録A 数学の復習」の一部とほぼ同じ内容が含まれており,それ以外には,「付録B」として,被告Y3が新たに作成した章末練習問題の解答が付されていることが認められる。これらの事実に,証拠(略)及び弁論の全趣旨を併せ考慮すれば,分冊Ⅰは,本件著作物の該当部分を複製ないし翻案したものであることは明らかというべきである。
 そして,本件著作物のうち,分冊Ⅰに相当する部分については,少なくとも亡Wの著作権が存することは,当事者間に争いがなく,かつ,本件著作物は,本冊において,その著作者として亡W及び原告X4の氏名が表示されていたのであるから,分冊Ⅰにも,本来,少なくとも亡Wの氏名がその著作者名として表示されなければならなかったことになる(法19条1項)。しかし,前記第2,2(2)イのとおり,分冊Ⅰの表紙及び奥付には,著作者名として被告Y3の氏名が記載されており,亡Wの氏名は記載されていない
 そうすると,かかる分冊Ⅰの著作者名表示は,亡Wの氏名表示権の侵害となるべきものであったということができる。」

「この点に関し被告らは,分冊Ⅰの前付に,「底本」として,本冊が表示され,そこに「著者 W・X4」との記載がされており,また,被告Y3の「まえき」,原告X4の「『基幹物理学』序文」及び被告Y2の「『基幹物理学』はじめに」に書誌が掲載されていることから,分冊Ⅰが本冊を改訂した著作物であることが明らかにされているとして,法19条3項により,原著作者である亡Wの名を省略することができると主張する。
 しかし,書籍の著作者名は,その表紙及び奥付等に「著者」又は「著作者」などとして記載する方法によって表示されるのが一般的であるところ,法14条が,著作物に著作者名として通常の方法により表示されている者を当該著作物の著作者と推定すると規定していることにも鑑みると,通常,読者は,そこに表示された者を当該書籍の著作者として認識するものと解される。そうすると,分冊Ⅰについても,その読者は,その著作者名表示から,著作者が被告Y3であると理解するものと解される。
 この点,確かに,分冊Ⅰの前付の底本の表示や「まえがき」等の文章を参照すれば,分冊Ⅰが,本冊を分冊化したものであり,本冊を一部改訂したにすぎないものであることは容易に認識し得るが,この前付は,分冊Ⅰの表紙をめくった書籍の内側に記載されているにすぎず,分冊Ⅰを外側から観察しただけでは,それを読み取ることができない。また,本件において,分冊Ⅰの表紙や奥付に亡Wの名を著作者名として表示することが困難又は不適当であったと解すべき事情は認められない。そうすると,上記のように,前付の記載によって本件著作物の著作者が亡Wであり,分冊Ⅰがそれを分冊化したものであることが認識できるとしても,それを理由に,分冊Ⅰの表紙及び奥付に,亡Wの氏名が著作者名として表示されず,被告Y3が単独著作者として表示されることによって,亡Wがその「創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」(法19条3項)と認めることはできない。」

4 検討
 分冊に星崎先生の表示はあるにはあったけど,非常に見難い場所にあっただけなのですね。やっぱり,元になった本の著作者なんだから,きちんとそれなりの礼儀を示す必要がある,というわけです。何つっても,著作者人格権を英語で言うと,moral right in copyright lawですからね。

 さてさて,今日は3.11。先週の金土日と,もはや初夏の暖かさ,というか暑さだったのですが,今日はまた冬に逆戻りです。と言っても大したことはありませんでしたけどね。明日の日中はまた暖かくなるらしいです。早く糞暑くなってほしいなあと思いますね。

PR
616  615  614  613  612  611  610  609  608  607  606 
カレンダー
07 2017/08 09
S M T W T F S
3 4 5
11
13 15 19
20 23 24 25 26
27 28 29 30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]