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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,小説家・漫画家・漫画原作者である原告らが,法人被告らは,電子ファイル化の依頼があった書籍について,権利者の許諾を受けることなく,スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し,その電子ファイルを依頼者に納品しているから,注文を受けた書籍には,原告らが著作権を有する別紙作品目録1~7記載の作品(原告作品)が多数含まれている蓋然性が高く,今後注文を受ける書籍にも含まれている蓋然性が高いとして,原告らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張し,①著作権法112条1項に基づく差止請求として,法人被告らそれぞれに対し,第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することの禁止を求めるとともに,②不法行為に基づく損害賠償として,㋐被告サンドリームらに対し,弁護士費用相当額として原告1名につき21万円の連帯支払,㋑被告ドライバレッジらに対し,同様に原告1名につき21万円の連帯支払を求めた事案です。

 これに対して,東京地裁民事第29部(大須賀さんの合議体ですね。)は,原告らの請求の一部(差止については全部)を認めました。

 ま,要するに,巷で話題の自炊代行業者に対する訴訟の判決ってわけです。

 ほんで,上記のとおり,ほぼ原告ら(クリエイター)の意図とおりの判決だったため,結構な話題になったわけです。

 勿論,予想できた結果ではあるのですが,ちっとも面白くねえなあって感がします。

2 問題点
 問題点は,端的に言えば,1つで,著作権法30条1項の私的使用のための複製にあたるかどうかです。
 著作権法30条1項はこんな条文です。
 「著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。」
 
 つまり,私的使用ならば複製がOK,そうでなければNGというわけです。そして,ポイントは,条文に下線を引きましたが,あくまで,自分で使用する人が複製をする場合に限られるというわけです。

 ですので,本人と同視できる場合,例えば,中山先生の「著作権法」には,子供,身体障害者が例として載っておりますが,それ以外で業者に頼んでコピーしてもらうというのは,ダメとなるわけです。

 で,いわゆる自炊代行ってどうやっているかというと,判決を見ると「①利用者が法人被告らに書籍の電子ファイル化を申し込む,②利用者は,法人被告らに書籍を送付する,③法人被告らは,書籍をスキャンしやすいように裁断する,④法人被告らは,裁断した書籍を法人被告らが管理するスキャナーで読み込み電子ファイル化する,⑤完成した電子ファイルを利用者がインターネットにより電子ファイルのままダウンロードするか又はDVD等の媒体に記録されたものとして受領する」もののようです。そして,被告の業者の一部は,裁断した書籍を廃棄していたようですね。

 そうすると,ま,この条文に形式的に当てはめると,複製しているのは,現に業者,ですから,私的使用には当たらなそうですね。ですので,侵害!オシマイとなりそうです。

 でも,ちょっと待って下さい。このまま何の悩みもなく,侵害!でいいのでしょうか。
 何で,この自炊代行が結構流行っているかというと,自炊の処理は結構面倒くさいわけです。紙の本を紙で数枚コピーする場合(まさに私的使用)とは手間が違い過ぎます。
 通常,まずは,背の部分を切り落としバラバラにします。つぎに,それをスキャナーに取り込み,pdf等に変換するわけです。

 このバラバラにする作業というのは大変です。ハサミと腕力でやろうとすると,まあ,数枚以上は,スキャンできないグチャグチャのお釈迦になってしまいます。そうすると,裁断機が必要になるのですが,自分で買うと結構高いです。一冊二冊のためにそんなバカ高い機械を買うよりも業者に頼んだ方がいいって感じがしますね。

 そして,スキャナーの作業も結構手間です。よくあるインクジェットプリンタに付属のやつでスキャンしようとすると,エラい時間がかかります。というのは,オートフィードなどないし,スキャン自体もエラい遅いですからね。そうすると,やはり,スキャナーも買いたくなりますね。スキャンスナップが有名です。ただ,上と同様に,一冊二冊のためにそんなバカ高い機械を買うよりも業者に頼んだ方がいいって感じがしますね。

 というわけで,紙の本を紙でコピーする場合に,そんな簡単に自分でできるんだから,業者なんかに頼むな,バカタレが~というのはわかります。でも,紙の本を電子データにするには結構な手間なわけです。
 しかも,こういう場合によく出る従前のメディアが売れなくなるという議論も当てはまりません。だって,通常業者に頼むのは,自分で使いたい人ですからね。そりゃ,電子データ化したものはコピーしやすく行き渡りやすいですが,そんなのどっかにアップロードした段階で捕捉可能ですので,そもそもが電子データである音楽ソフト,ゲームソフト,プログラム,映像ソフトとはちょっと違うのではないかと思います。

 というわけで,私的使用の範囲は,この自炊に限ってはちょっとは膨らませてもいいんじゃないのかあという価値判断がある程度あったと思うのですね。ですので,条文上は,杓子定規に決着がつきそうなのに,議論があったわけです。

 で,今回の判決は?というと・・・。

3 判旨
「著作権法2条1項15号は,「複製」について,「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義している。
    この有形的再製を実現するために,複数の段階からなる一連の行為が行われる場合があり,そのような場合には,有形的結果の発生に関与した複数の者のうち,誰を複製の主体とみるかという問題が生じる。
     この問題については,複製の実現における枢要な行為をした者は誰かという見地から検討するのが相当であり,枢要な行為及びその主体については,個々の事案において,複製の対象,方法,複製物への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して判断するのが相当である(最高裁平成21年(受)第788号同23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁参照,(注 ロクラクⅡ事件の方です。))。
     本件における複製は,上記(1)ア及びイで認定したとおり,①利用者が法人被告らに書籍の電子ファイル化を申し込む,②利用者は,法人被告らに書籍を送付する,③法人被告らは,書籍をスキャンしやすいように裁断する,④法人被告らは,裁断した書籍を法人被告らが管理するスキャナーで読み込み電子ファイル化する,⑤完成した電子ファイルを利用者がインターネットにより電子ファイルのままダウンロードするか又はDVD等の媒体に記録されたものとして受領するという一連の経過によって実現される。
     この一連の経過において,複製の対象は利用者が保有する書籍であり,複製の方法は,書籍に印刷された文字,図画を法人被告らが管理するスキャナーで読み込んで電子ファイル化するというものである。電子ファイル化により有形的再製が完成するまでの利用者と法人被告らの関与の内容,程度等をみると,複製の対象となる書籍を法人被告らに送付するのは利用者であるが,その後の書籍の電子ファイル化という作業に関与しているのは専ら法人被告らであり,利用者は同作業には全く関与していない。
    以上のとおり,本件における複製は,書籍を電子ファイル化するという点に特色があり,電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ,その枢要な行為をしているのは,法人被告らであって,利用者ではない。
    したがって,法人被告らを複製の主体と認めるのが相当である。」

4 検討
 上記判旨は論点に直接答えている部分ではないのですが,ここに尽きると思いますので,この判旨を取り上げました。
 つまり,裁判所は,まず,今回,誰が複製の主体か?ということを決めたわけです(そのとき,ロクラクⅡの規範によりました。)。
 で,その結果,業者が複製の主体だと判断したわけです(上記判旨)。

 そうすると,あとは簡単です。私的使用でOKになるのは,複製の主体=利用の主体の場合だけなので,→私的使用の要件に該当しない!となります。

 ほんで,業者が補助してるだけだと反論しても,そもそも補助じゃなく,メイン!だって言っているでしょ,複・製・の・主・体♫なんだから~このイケズーとなったわけです。

 まあ原則とおりというか条文とおりというか,判決を書くのは結構簡単だったろうなあと思わせる,あんま悩みのない判決ですね。ちなみに,この程度の判決なら,私のスピードなら2日あればできますね,そんなもんです。

 ま,裁判所をdisってもしょうがない所です。ただ,裁判所がまず主体論で来るというのは,裁判中わかっていたかというと,若干怪しい所があります。主体論に関し,原告被告お互いのやり取りはありますが,その主体論は被告の抗弁として現れて,それに原告らが反論する形になっております。しかも若干メインの争点とは離れた所でです。

 とすると,結構不意打ちくさいのですね。となると,もうちょっと,この主体論に的を絞って(違う観点でもよいのですが。),議論を見てみたいというところでありますね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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