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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,控訴人ら(ノルウェーの家具屋さん)が,被控訴人に対し,被控訴人の製造,販売する被控訴人製品(幼児用椅子ですね~。TRIPP TRAPPというやつです。)の形態が,控訴人らの製造等に係る別紙1「控訴人ら製品目録」記載の製品(控訴人製品,こちらも幼児用椅子です。)の形態的特徴に類似しており,被控訴人による被控訴人製品の製造等の行為は,①控訴人オプスヴィック社の有する控訴人製品の著作権(控訴人オプスヴィック社の著作権)及び同著作権について控訴人ストッケ社の有する独占的利用権(控訴人ストッケ社の独占的利用権)を侵害するとともに,②控訴人らの周知又は著名な商品等表示に該当する控訴人製品の形態的特徴と類似する商品等表示を使用した被控訴人製品の譲渡等として,不正競争防止法2条1項1号又は2号の「不正競争」に該当する,仮に,上記侵害及び不正競争に該当すると認められない場合であっても,少なくとも③控訴人らの信用等を侵害するものとして民法709条の一般不法行為が成立する旨主張して,①控訴人らにおいて,不競法3条1項及び2項に基づき,控訴人オプスヴィック社において,著作権法112条1項及び2項に基づき,被控訴人製品の製造,販売等の差止め及び破棄を求め,②控訴人オプスヴィック社において,著作権法114条3項,不競法4条,5条3項1号,民法709条に基づき,控訴人ストッケ社において,著作権法114条2項,不競法4条,5条2項,民法709条に基づき,それぞれの損害賠償金及びこれらに対する原審訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,③控訴人らにおいて,不競法14条に基づき,謝罪広告の掲載を求めた事案です。

 原審の東京地方裁判所平成25年(ワ)第8040号(平成26年4月17日判決)(46部で長谷川さんの合議体ですね。)は,「①控訴人製品のデザインは,著作権法の保護を受ける著作物に当たらないと解されることから,控訴人らの著作権又はその独占的利用権の侵害に基づく請求は,理由がない,②控訴人製品は,従来の椅子には見られない顕著な形態的特徴を有しているから,控訴人製品の形態が需要者の間に広く認識されているものであれば,その形態は,不競法2条1項1号にいう周知性のある商品等表示に当たり,同号所定の不正競争行為の成立を認める余地があるものの,被控訴人製品の形態が控訴人製品の商品等表示と類似のものに当たるということはできず,よって,控訴人らの不競法2条1項1号に基づく請求は,理由がない,③本件の各関係証拠上,控訴人製品の形態が控訴人らの著名な商品等表示になっていたと認めることはできず,また,上記のとおり,被控訴人製品の形態が控訴人製品の商品等表示と類似のものに当たるとはいえないことから,控訴人らの同項2号に基づく請求は,理由がない,④被控訴人製品の形態が控訴人製品の形態に類似するとはいえず,また,取引者又は需要者において,両製品の出所に混同を来していると認めるにも足りないから,被控訴人製品の製造・販売によって控訴人らの信用等が侵害されたとは認められず,したがって,上記製造・販売が一般不法行為上違法であるということはできない旨判示し,控訴人らの請求をいずれも棄却し」ました。

 これに対して,知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,控訴をいずれも棄却しました。

 ま,この概要だけ普通に書くと,ナンテーことはない,工業製品を著作権法でとっちめるというただの筋悪事案のように見えます。結論も控訴棄却ですしね。

 でも,でも!でも!!,今年最大の話題の判決になると思います。もうねえ,仮にこの判決のとおりだとすると,知財の実務が大きく変わります!それくらいの問題判決です。

 実は,例のまっことに可哀想な切り餅訴訟の第2弾の判決が漸くアップされたので,本当はそっちの紹介にしようかなあと思ったのです。しかし,この著作権の判決に比べれば・・・ということで,こっちにしました。
 もう,色んな学者も弁護士も,そして弁理士も,兎に角色んな所で評釈,論評が繰り広げられるでしょう~。いやあ,デザインビッグバン!と言ってもよいでしょう。あと,特許庁は頭を抱えるでしょうね。

 さて,ブログにうまく貼り付けられたかどうかわかりませんが,これが控訴人の製品です。

 
 で,この控訴人の製品の著作権,つまりは著作物性が問題になったのです。

2 問題点
 問題点は,上記のような工業製品のデザイン~,こういうやつが著作権法で保護されるか?っていうよくあるバターンです。

 著作権法を見てみましょう
 著作権法2条1項1号
一  著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 著作権法2条2項
2  この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。

 とあります。
 つまりは,純粋美術のものが保護されるのは当然として,応用美術のものについては,美術工芸品についてしか述べてないわけです。ですので,美術工芸品以外の応用美術のものが著作権法で保護されるかどうか問題となるわけです。

 この点,学説は色々あるのですが,応用美術と純粋美術って一刀両断に切り分けできないことから,通説的には,美術工芸品以外の応用美術のものも著作権法で保護されるだろうということになっております。

 ですので,問題は,著作権法でどこまでの応用美術のものが保護されるかどうかってところです。
 これの嚆矢としては博多人形事件っていうのがあります(長崎地裁佐世保支部昭和48年2月7日決定)。
 ただ,この後も色んな判決ありますが,判決は,ある程度,保護の範囲を抑えているように見えます。
 中山先生(「著作権法第2版」p170)の言葉を借りれば,「要するに純粋美術と同視しうるものか否かを問題としているだけであり」っちゅうことですね。

 そうじゃないと意匠法との切り分け,つまりは意匠法での保護範囲と重なるとおかしなことになってしまうからです。

 ここも中山先生の言葉を借りましょう。
「判例が応用美術について要求しているレベルを不要とすると,家具什器,自動車,アパレル,電気器具等までも著作権法の守備範囲となってしまう恐れがある。」(同p172)てなことになりますよ。
 そうすると,何が困るかというと,「著作権法との重畳適用を認めると存続期間を短く定めた意匠法の趣旨が没却されることになる。」(同p167)し,「例えば,当該応用美術品を写真に撮ったり絵に描いたり,あるいはテレビで当該応用美術品を放映しただけで侵害となるおそれがある。」(同p167)のです。

 いやあ大変だ。だって,上記に,控訴人の製品の写真をコピペしていますが,これも著作権侵害~なんてこった!

 ですので,中山先生も,結論として,著作権法で保護される応用美術とは,「著作権法で保護される純粋美術と同視できるものであると解すべきである。」(同p171)としています。

 私も賛成!大賛成!~ということで,この事件の一審も,こういう中山先生と同様の,謂わば通説的見解をとったものと言えるわけです。

 つーことは?散々ひっぱったということは?ですよ。

3 判旨
「ア 控訴人製品の著作物性の有無
(ア)a⒜ 著作権法は,同法2条1項1号において,著作物の意義につき,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定しており,同法10条1項において,著作物を例示している。
 控訴人製品は,幼児用椅子であることに鑑みると,その著作物性に関しては,上記例示されたもののうち,同項4号所定の「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」に該当するか否かが問題になるものと考えられる。
 この点に関し,同法2条2項は,「美術の著作物」には「美術工芸品を含むものとする。」と規定しており,前述した同法10条1項4号の規定内容に鑑みると,「美術工芸品」は,同号の掲げる「絵画,版画,彫刻」と同様に,主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解される。
 しかしながら,控訴人製品は,幼児用椅子であるから,第一義的には,実用に供されることを目的とするものであり,したがって,「美術工芸品」に該当しないことは,明らかといえる。
⒝ そこで,実用品である控訴人製品が,「美術の著作物」として著作権法上保護され得るかが問題となる。
 この点に関しては,いわゆる応用美術と呼ばれる,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とする表現物(以下,この表現物を「応用美術」という。)が,「美術の著作物」に該当し得るかが問題となるところ,応用美術については,著作権法上,明文の規定が存在しない。
 しかしながら,著作権法が,「文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的と」していること(同法1条)に鑑みると,表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに著作物性を一律に否定することは,相当ではない。同法2条2項は,「美術の著作物」の例示規定にすぎず,例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべきである。
 したがって,控訴人製品は,上記著作物性の要件を充たせば,「美術の著作物」として同法上の保護を受けるものといえる。
b 著作物性の要件についてみると,ある表現物が「著作物」として著作権法上の保護を受けるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(同法2条1項1号),「創作的に表現したもの」といえるためには,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の何らかの個性が発揮されたものでなければならない。表現が平凡かつありふれたものである場合,当該表現は,作成者の個性が発揮されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできない。
 応用美術は,装身具等実用品自体であるもの,家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり(甲90,甲91,甲93,甲94),表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。
c そして,著作権侵害が認められるためには,応用美術のうち侵害として主張する部分が著作物性を備えていることを要するところ,控訴人らは,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴,すなわち,別紙3「控訴人製品及び被控訴人製品の概要」のⅠ⑵(以下「控訴人製品の概要」という。)のとおり「左右一対の部材Aの内側に床面と平行な溝が複数形成され,その溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)をはめ込んで固定し,部材Aは床面から斜めに立ち上がっている」という形態に係る著作権が侵害された旨主張するものと解される。
 そこで,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴につき,著作物性の有無を検討する。
(イ)a オフィスチェア,ソファ,スツール等を別として,ダイニングチェア,リビングチェア,学習用の椅子など,一般的に家庭で用いられる1人掛けの椅子は,子供用のものも含め,4本脚のものが比較的多い(甲45,甲84,乙17の1から3,乙21,乙22等)。独立行政法人国民生活センターが実施した乳幼児用チェアの安全性のテストに係る報告書においても,4本脚の乳幼児用チェアが図示されている一方,2本脚のものは示されていないこと(乙29の1,2)にも鑑みると,控訴人製品及び被控訴人製品が属する幼児用椅子の市場においても,4本脚の椅子が比較的多いものと推認できる。
 以上によれば,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴は,「左右一対の部材A」の2本脚である点において,特徴的なものといえる。・・・
ⅲ 控訴人製品における「部材A」と「部材B」の成す角度は,前述した「シャート」,「ダックチェア」,「パロットチェア」,「コイノドチェア」及び「T-5427」に比しても,小さい。また,「部材A」と「部材B」の結合態様についても,控訴人製品と同様のものは,上記のうち「シャート」のみである。控訴人製品は,上記の「部材A」と「部材B」の成す角度及び結合態様によって,他の2本脚の椅子に比して,鋭角的な鋭い印象を醸し出している。
c 幼児用椅子としての機能に着目してみると,財団法人製品安全協会作成に係る「乳幼児用ハイチェアの認定基準及び基準確認方法」(乙30)において,乳幼児用ハイチェアの安全性品質につき,「項目」,「認定基準」及び「基準確認方法」(以下「安全性品質基準」という。)が定められているところ,「外観,構造及び寸法」の項目の「認定基準」においては,「⑴ 各部の組付けが確実であること。」などの抽象的記載や,「床面から座前縁中央までの最高位の高さは450㎜以上600㎜以下であること。」など安全性の観点から許容される高さや各部材の寸法の範囲,強度などの記載がみられるにとどまり,具体的な形態を指定する記載はない。
 また,幼児用椅子という用途に鑑みると,使用する幼児の身体の成長に合わせて座面及び足置き台の高さを調節する必要性は認められるが,同調節の方法としては,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴における方法,すなわち,「左右一対の部材Aの内側に床面と平行な溝」を「複数形成」し,「その溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)をはめ込」み,適宜,「部材G(座面)及び部材F(足置き台)」をはめ込む溝を変えて高さを調節するという方法以外にも,ボルトやフック,ねじ等の留め具を用いるなど種々の方法が存在する(乙8の4,5など)。
 以上に鑑みると,控訴人製品の概要のとおりの,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴が,幼児用椅子としての機能に係る制約により,選択の余地なく必然的に導かれるものということは,できない。
d 以上によれば,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴は,①「左右一対の部材A」の2本脚であり,かつ,「部材Aの内側」に形成された「溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)」の両方を「はめ込んで固定し」ている点,②「部材A」が,「部材B」前方の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接している点及び両部材が約66度の鋭い角度を成している点において,作成者である控訴人オプスヴィック社代表者の個性が発揮されており,「創作的」な表現というべきである
 したがって,控訴人製品は,前記の点において著作物性が認められ,「美術の著作物」に該当する。」

4 検討
 どうですか?
 いや,判旨も途中までウンウンそうだよね~,そうそう,ってなりますが,規範がちょっと今までと違うなあ(兎に角,作成者の何らかの個性が発揮されたものでいい)となった後,うー,うーん,ブー(茶を吹き出した音)となりますね。

 しかし,清水部長は侮れない男だね~,全く。

 まあ,聞く話によると,一部の弁護士連中の中では,工業製品のデザインもヨーロッパでは著作物として保護されることから(工業デザインの著作物というらしいです。),日本でも・・・ちゅう要望があるということです。でも,それって意匠との兼ね合いを考えた末のことでもありますから,短絡的に日本でも~なわけがありません。

 しっかし,仮にこのとおりとすると,中山先生の危惧がそのままです。
 例えば,今,ジェネリック家具というのがあります。知ってますかね。意匠権切れのコピー品を安く売るという商売です。
 でも,家具に上記のように著作物性が認められるとなると,こんなコピー品はダメです。
 本件で,棄却になったのは,類似していない,っていうことだけだからですからね!デッドコピー品はダメに決まっています。

 家具だけじゃありません。おしゃれな電化製品~デザイン家電と言うらしいですね~これもデッドコピーはダメです。自動車も,アパレルも・・・です。

 勿論,こういうのも従前不競法の形態模倣(不競法の2条1項3号)で捕捉できました~。ただ,この不競法の場合は,「日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品」については適用除外になるのです。
 ところが,著作物の場合は,いつ権利がなくなるかというと・・・著作者の死亡から50年です(著作権法51条2項)。しかもTPPで伸びそうですしね。もう形態模倣も不要!です。

 さらに,著作権法で保護されると,きっつい人格権での捕捉も可能です。
 となると,家具を勝手に改造したら,同一性保持権違反になるわけです。これ,刑事罰までありますからね(著作権法119条2項)。ギエ―!!

 当然,出願なんかしなくてもいいわけですしね~。

 いやあ,考えれば考えるほど憂鬱になってきますわ。
 しかも,これ,被告っつーか被控訴人は,全部棄却なので,不服申立てできないのですよ!(形式上は全面勝訴ですのでね。)やりやがったなあ~って感じですよ。

 弁理士の皆さんも,これから相談に来た依頼者に,意匠出願しないとダメですよ~著作権じゃあ工業製品は保護されませんからね~って言ったら過誤になるわけです。
 特許庁も折角ハーグ協定の締結で,意匠権の保護が多少厚くなると思った矢先にねえ。

 いやあ,兎も角大問題も大問題です。負けた控訴人が上告しないかなああ。
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