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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,本判決別紙3「控訴人加湿器目録」記載1及び2の加湿器の開発者である控訴人(一審原告)らが,被控訴人に対し,①本判決別紙1「被控訴人商品目録」記載の加湿器は,控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態を模倣したものであるから,その輸入,販売等は不正競争防止法2条1項3号の不正競争(形態模倣)に当たるとして,同法3条1項及び2項に基づいて,被控訴人商品の輸入,販売等の差止め及び廃棄を,②控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は,いずれも,美術の著作物(著作権法10条1項4号)に当たるから控訴人らはこれらに係る著作権(譲渡権又は二次的著作物の譲渡権)を有するとして,著作権法112条1項及び2項に基づいて,被控訴人商品の輸入,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに(上記①とは選択的併合),③不正競争防止法違反又は著作権侵害の不法行為に基づき(選択的併合,不正競争防止法5条3項2号又は著作権法114条3項の選択的適用),損害賠償金各120万円(逸失利益各95万円と弁護士費用各25万円の合計120万円の2人分で総計240万円)及びこれに対する不法行為後の日である平成27年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求める事案です。

 一審の東京地裁成27年(ワ)第7033号(平成28年1月14日判決)は,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2につき,①両者は,いずれも,市場における流通の対象となる物とは認められないから,不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たらない,②両者は,いずれも,美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えていると認めることはできないから,著作物に当たらないとして,控訴人らの各請求をいずれも棄却しました(民事第46部の長谷川さんの合議体ですね。)。

 これに対して,今回の控訴審の知財高裁2部(清水さんの合議体ですね。)は,逆転で控訴人(一審の原告)の請求を一部認容しました。

 逆転で認容したのは,不正競争防止法の件で,当事者には凄く重要なのでしょうが,私のような無責任な第三者からするとあまり興味がありません。

 じゃあ何故このブログ,しかももうあんま判決を紹介する気もなくなったこのブログで取り上げたからというと,侮れない男,清水部長のちょっと日和った姿が見られたからです。つまり面白判決の範疇ってことです。

2 問題点
 メインの問題点は上記のとおり,不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」の解釈です。これについて,一審は,まだ発売していない(展示会に展示しただけ。)商品は,市場における流通の対象となる物とは認められないから,不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たらないとしたわけです。

 他方,二審が上記のとおりの結論だということは,要するに「商品」に当たると判断したわけです。そこも重要なんですけどね,ま,それはいいでしょう。

 で,隠れ論点は,そうではなく,例の工業製品の著作物性です。ちょい前にブログに書きましたが,ここ数年の流れはこんな感じでした。

 ①工業製品の著作物性には高いハードルを課した一連の流れ(博多人形事件が鏑矢で,最近のだとファッションショー事件とかですね。)

 ②そこに突然現れたTRIPP-TRAPP事件(知財高裁平成26年(ネ)10063号,平成27年4月14日判決)。これは知財高裁2部で清水部長の合議体。規範は,「応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」でした~♫

 ③その後,地裁レベルでは,ピクトグラム事件(大阪地裁平成25年(ワ)1074号,平成27年9月24日判決)がありました。規範は,「美的鑑賞となり得る美的特性を備えている場合」でした。

 ④さらに,知財高裁で,幼児用箸事件の判決がありました(知財高裁平成28(ネ)10059,平成28年10月13日判決)。知財高裁3部で,鶴岡さんの合議体です。私のも差止めくらう虞がなくなりホッとしました。規範は,「美的観点を全く捨象してしまうことは相当でなく,何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えていることが必要である(これは,美術の著作物としての創作性を認める上で最低限の要件というべきである)。」でした。

 そして,この度,漸く,問題のTRIPP-TRAPP事件と同じ清水部長の合議体に,工業製品の著作物性が問題となる事案が係属するに及び,もう各方面から早く判決が出ないかなあ~どうなんだろうなあ~と首を長くして待つという事態になったのですね。

 それがこの判決です!
 どうですか~この判決の意義はわかりましたか?侮れない男はやはり侮れないのか,それとも多少デヘヘ~となるのか,世間も注目しておりました。
  
 ちなみに控訴人と被控訴人の製品はこんな感じです。
 

 試験管の形状をした,携帯型の加湿器ですね。

3 判旨
「(1) 応用美術と著作物性について
 著作権法2条1項1号は,著作物の意義につき,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定しており,そして,ここで「創作的に表現したもの」とは,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の何らかの個性が発揮されたものをいうと解される。
 控訴人らは,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2が,加湿という実用に供されることを目的とするものであることを前提として,その著作物性を主張する(著作権法10条1項4号)から,本件は,いわゆる応用美術の著作物性が問題となる。
 ところで,著作権法は,建築(同法10条1項5号),地図,学術的な性質を有する図形(同項6号),プログラム(同項9号),データベース(同法12条の2)などの専ら実用に供されるものを著作物になり得るものとして明示的に掲げているのであるから,実用に供されているということ自体と著作物性の存否との間に直接の関連性があるとはいえない。したがって,専ら,応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い。また,応用美術には,様々なものがあり得,その表現態様も多様であるから,作成者の個性の発揮のされ方も個別具体的なものと考えられる。
 そうすると,応用美術は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上,著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても,高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず,著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,著作物として保護されるものと解すべきである。
 もっとも,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,美的特性を備えるとともに,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。そうすると,応用美術について,美術の著作物として著作物性を肯定するために,高い創作性の有無の判断基準を設定しないからといって,他の知的財産制度の趣旨が没却されたり,あるいは,社会生活について過度な制約が課されたりする結果を生じるとは解し難い。
 また,著作権法は,表現を保護するものであり,アイディアそれ自体を保護するものではないから,単に着想に独創性があったとしても,その着想が表現に独創性を持って顕れなければ,個性が発揮されたものとはいえない。このことは,応用美術の著作物性を検討する際にも,当然にあてはまるものである。
 以上を前提に,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2の著作物性を判断する。・・・

 ・・・これは,アイディアをそのまま具現したものにすぎない。また,控訴人加湿器1の具体的形状,すなわち,キャップ3の長さと本体の長さの比(試験管内の液体の上面),本体2の直径とキャップ3の上端から本体2の下端までの長さの比(試験管の太さ)は,通常の試験管が有する形態を模したものであって,従前から知られていた試験管同様に,ありふれた形態であり,上記長さと太さの具体的比率も,既存の試験管の中からの適宜の選択にすぎないのであって,個性が発揮されたものとはいえない。
 したがって,著作物性を検討する余地があるのは,上記構成以外の点,すなわち,①リング状パーツ5を用いたこと,②吸水口6の形状,③噴霧口7周辺の形状であるが,いずれも,平凡な表現手法又は形状であって,個性が顕れているとまでは認められず,その余の部分も同様である。
 したがって,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2には,著作権法における個性の発揮を認めることはできない。」

4 検討
 男ってやつは厄介です。特に中年を過ぎた男ってやつは。
 プライドとか体面とかが気になって素直にごめんって言えなくなるのです。私もそうなんですよね。頑なに失敗を認めず,いやこれは**のせいだとか,***が&&&になったからで,致し方ないのだ~てな具合になります。

 だからわかりますよ。去年出した判決の規範を変えるなんて,プライドが許すわけがない!しかも何を言われるかわかったもんではありませんからね。
 だから,今回もTRIPP-TRAPP事件と規範は同じです。作者の個性!です。

 とは言え,やっぱTRIPP-TRAPP事件はラディカル過ぎたと反省したのでしょうね(ま,何事も挑戦すること自体は悪いことじゃないですけどね。)。その後ウダウダと言い訳がましい補助的規範を連ねています。やれ応用美術は実用品だから,その目的の機能を発揮する範囲内だとか,選択の幅が狭く保護範囲も狭くなるだとか,アイデアを保護するものじゃないんだよだとか,いやあ面倒臭いな~って感じです。
 チェッカーズのように素直にi'm sorryって言えば簡単なのに,面倒臭いんですね,色々と~♡。

 とは言え,方向性は固まったって所でしょう。工業製品の著作権法での保護は,やはり悪手だということです。

 特許庁の意匠関係の皆様もホッとしたことでしょう。何より一番ホッとしているのは,知財高裁2部自身かもしれませんがね。ムフフフ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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