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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護土の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 今日は雨で梅雨寒の東京です。よう降りますなあ。

 さて,IT系の人々での話題の法律セグメントの事件って,今2つあると思います。

 まず,1つは,リツイートした写真が著作者人格権侵害になった~これから気軽にリツイートできないよ~という話です。

 事案は,この事件(知財高裁平成28年(ネ)第10101号 発信者情報開示請求控訴事件,平成30年4月25日判決)の概要の所を見てもらった方が早いですかね。
 著作権侵害となるようなツイートに対するリツイートでは,ブラウザ等のHTMLやCSSの仕組みで勝手にトリミングされたとしても,著作者人格権の侵害になる!と判断したものです。

 これは知財高裁2部の森部長の所の合議体の判断ですねえ。

 ま,多少問題かなあと思うのですけど,所詮発信者情報開示請求の事件ですから,あまり深刻にならなくても今の段階ならいいのではないかと思います。
 というのは,だって,被告というか被控訴人,やる気ないですもん。原告(控訴人)は権利者ですからやる気満々ですけど,被告はプロバイダー等(今回は日本のツイッター社とアメリカのツイッター社)であり,実際リツイートした人ではなく,はっきり言ってどうでもいい~って所でしょうからね。

 つまり,プロバイダーとしては,発信者情報開示するから,下々の人同士,勝手にやってくれ~って,それが本音です。ムフフフ。

2 そんなことよりも心配なのは,コインハイブ(coinhive)の件です。

 コインハイブというのは,実に面白い,本当素敵な仕組みです。
 インターネットでマネタイズしようとすると,結局今まではアフェリエイトを初めとして広告!しかなかったわけです。

 facebookや上で問題になったツイッター,あとグーグルもそうですね。巨大プラットフォーマー,株価◯倍~,今をときめくIT企業~♪と言われながらも,そのマネタイズの方法は,そこら辺のユーチューバーやブロガーと基本同じなのです。

 ところが,このコインハイブ,所謂仮想通貨のマイニングをやらせることによってマネタイズするという画期的なものです。

 例えば,このブログを見ていると,まあ数秒から数時間くらい,見る場合もあろうと思うのですけど,その間,このブログに仕込まれたスクリプトによって,見ている人のPCのCPUのパワーの一部を仮想通貨のマイニングに駆り出すようになるって代物です。

 なので,見ている時間が長ければ長いほど,見ている人が多ければ多いほど,沢山マイニングされ,ブログ等の主催者にマイニングされた仮想通貨が入ってくるというわけです(勿論,コインハイブの主催者に上がりの一部を取られますけどね。)。

 どうでしょ,結構素晴らしいと思うのですけどね。
 ただし,ダマでやられると,急にCPUのファンが回り出したり,あれ勝手にCPU使用率が急上昇~,場合によってはなんで遅いの~ちゅうことになると思います。

 で,こっからが問題なのですが,今現在,ダマでコインハイブを自分のブログ等に埋め込んだ人が全国的に逮捕等されています。

 家宅捜索を受けたということで,数日前話題になってましたが,今朝のニュースでは逮捕者が出たようです。

 被疑事実は,刑法168条の2付近です。
「(不正指令電磁的記録作成等)
第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3 前項の罪の未遂は、罰する。

 ポイントは,1項の1号ですね。「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令」です。

 コインハイブがこれに該当するか,端的な問題点はここです。

 立法の趣旨は,簡単です。コンピュータウイルス対策,ということになります。

 私の持っているコンメンタール(条解刑法第3版,弘文堂)によりますと(ちゃんと刑法のコンメンタールくらい持っているのですよ),
本条の罪は,電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼を保護法益とするものであるから,あるプログラムが使用者の「意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる」ものであるか否かが問題となる場合,その「意図」は,そのような信頼を害するものであるか否かという観点から規範的に判断されることになる。すなわち,個別具体的な使用者の実際の認識を基準としてではなく,当該プログラムの機能の内容や機能に関する説明内容,想定される利用方法等を総合的に考慮して,その機能につき一般に認識すべきと考えられるところを基準として,規範的に判断されることとなる。」
とあります。

 つまり,規範的ということですから,アバウトなヤバさでもダメな場合もあるってことですね。しかも個別的ではなく一般的にヤバイかどうかが問題となるようです。

 裁判例だと,どのようなものがあるか,私の検索できるデータベースでちょっと見てみました。

①千葉地裁平成25年(わ)第1111号等
 携帯電話機に記録された電話帳データをアメリカ合衆国フロリダ州内に設置されたサーバコンピュータに送信する指令を与える電磁的記録であるウイルス・プログラム

②京都地裁
平成24年(わ)第133号等 
 アダルト動画を再生しようとした者が使用する電子計算機上に,マウス操作による移動,サイズ変更及び最小化ができず,閉鎖しようとしても数秒後に再表示され,かつ電子計算機を再起動しても再表示される機能を有した,同サイトの有料会員登録が完了した旨及び同サイトの閲覧料金を支払うまでそのウィンドウが消えない旨等を半裸の女性像や卑わいな文言と共に表示するウィンドウを常時表示させる
指令を与えるphpファイル

③東京地裁
平成25年(合わ)第48号等(某有名事件ですね。) 
 他人のパソコンを遠隔操作するためのプログラム

④東京地裁平成26年特(わ)第927号等
 電気通信回線に接続されたパーソナルコンピュータ内で起動すると自動的に電気通信回線を介して被告人使用のパーソナルコンピュータとの通信を開始させるとともにIPアドレス情報等を同パーソナルコンピュータに通知する機能及び同パーソナルコンピュータでの操作によって起動場所であるパーソナルコンピュータ内の電磁的情報を検索して被告人使用のパーソナルコンピュータに送信させる機能等を有するプログラム

 下級審ですけど,裁判にまで至ったのは,典型的コンピュータウィルスのやつばかりです。
 ①は個人情報を吸い上げるやつで,②はエロで脅すってやつで,③は有名,④は迷惑メールでよく付いてくるパターンです。

 他方,こういうのに比べると,今回のやつはCPUのパワーをお借りします~っていうくらいなもので,当罰性はかなり低いかなあと思います。謂わば,協力したくない元気玉~♪って所でしょうか。

 ま,こう協力したくないと書きましたが,協力したくないからって直ちに違法で犯罪にまでなるかというと,そりゃ別問題です。

 CPUのパワーを勝手に使われるというのはよくあります。例えば,今はあんまりなくなりましたが,フラッシュですね。
 法律事務所だって,いきなり要らん動画で始まるサイトなんかいっぱいあります。別に,この事務所のサイトに来たら動画でCPUやメモリを沢山食う,なんて事前告知はありません。あーあスキップするのはどこかなあと探して,スキップすればいいわけです。

 この辺,私もときどき見る高木先生のブログに詳しいのですが,やはりそうだろうなあと思います。あ,私はIT弁護士って言っても,IntikiインチキのITですから,大して技術に詳しいわけではありませんので,ね。

 なので,当罰性は低く,裁判例から考えると,こんなので,検挙すんの!ってことになると思います。

 とは言え,上記のコンメンタールのことを考えると,ちょっとまずいわけです。
 規範的というのは,どういうことかと言いますと,早い話,それは裁判官の胸先三寸で決まる,ということです。当否はともかくも,日本の刑事裁判では起訴されたらほぼ100%有罪ですから,裁判官の胸先三寸がコンメンタール的に判断する可能性は極めて高いと思いますよ。

3 ただねえ,この事件,被害者(潜在的被害者も含めて)が大手企業じゃなく,どうしてこれで警察が動いたのか,不思議だったのですね。

 いや,著作権でも,不競法でも,何でもいいのですが,新しい技術がポイントとなっている場合の刑事事件って,大企業からの告訴だとか被害届だとか,そういうのがないと警察って本当動かないのですね。
 そりゃそうです。そんな難しくて面倒なの,やりたくありませんからね。だけど,大手からのやつだと重い腰も上げるわけです。

 他方,今回,マイニングが進んでも,日本の大手企業がマイニングに進出したのはごく最近の話だし,フィンテックっつって言っても,銀行とかそれ系のコンベンションナルな大企業とはあまりバッティングしないなあと思ったのですね。
 つまり,これをやられて個別の個人等は多少困るだろうけど,そんな大手企業で困る所ってないから,それでどうして警察が動いたんだろう~ってえのがわからなかったわけです。

 ところが,上記高木先生のブログに,その答えまで書いてありました~。ああ,セキュリティソフト会社ね,確かにそうだわ~。
 コインハイブを検出しても違法じゃないってことになったら,そんな検出機能別に要らないです~ってなるのが人情ですもんね。

 ともかくも,一般的な「意図」には反しない~という所が攻めどころですかねえ。ここを何とか攻めれば,もともと当罰性は低いので,起訴されても無罪方面まで持っていくことは可能だと思います。
 しかし,油断は禁物です。上記コンメンタール的に,検察の起訴を信頼→一般的にもダメなやつでしょこれ→有罪ってあり得ます。
 無責任な通りすがりとしては,波高し,各人奮励努力せよ,という所でしょうかね。
 
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